第10話 大事な話
目に飛び込んできたのは広い花畑だった。サトルは花には全く興味がなかったがその風景に囲まれているカナのことはとてもきれいだと思った。
写真を取り合って、話して場所を移動しての繰り返し。時間の流れが緩やかに感じていた。こんな時間がいつまでも続けばいいのにと本気で思った。
カナとの時間を過ごしていると現代での仕事に追われる日々をつい忘れてしまいそうになる。大学に入ったサトルは特に目的意識を持っていたわけではなく、ぼんやりとした日常を過ごしていた。電車に揺られて毎日同じ場所で降りて、授業を受けて帰る。大学生は楽しい時間じゃなかった。
友達は広く浅く。何かあった時に頼れる友達は最後までできなかった。
大学は個性を伸ばす時間だとよく言われているが、部活やサークルなどには所属の意志を見せなかったサトルは高校とは真逆のような生活だった。
個性を失っていく人が大半だ。自分はそうなりたくないと思っていたが結果はそうなってしまったのだ。流れるように就職して個性とは今、無縁の世界にいる。
指示されたことを正確にできる人の方が優遇されるような社会にサトルはいる。若いときにたくさん聞いた有名人の成功エピソードは多くに人にとってあこがれであると同時に夢物語に等しかった。
カナと付き合っている。このことだけ分かっていれば他のことはきっとどうでもよかったのだろう。大学時代、気になる人がいないわけじゃなかった。でも過去を引きづっているのは相手からすると魅力的に映らないのだろう。
告白する勇気もなかったし、されることもなかった。時間は待ってはくれないのだ。自分が時間をどれだけ無駄に過ごしてきたのかを痛感していた。
日は落ちて花畑に隠れたLEDがそれぞれの色を光らせ始めた。
「綺麗だね、サトルと見ているとよりそう感じる」
「また来れるよ、きっとね」
人が多く集まってきて、カップルで来ている人もたくさん見かけた。売店があるわけでもないのに長い列ができ始めてサトルたちもそれに巻き込まれそうであった。
「二人になれる場所に行こう、カナに話したいことがあるんだ」
緊張はしていなかったと思う。話すことはうまくまとまっていないのに冷静でいられたような気がする。
「珍しいね」
移動した場所は混んでいる場所から少し離れたベンチだった。少し高いところにあって先ほど混んでいた列もよく見える。
「サトル、今日は自分からよく話すね。そんなに話したかったの」
「話したかったよ、久しぶりだからね」
「話したい事って何」
「俺、未来から来てるんだよね」
続けてサトルはしゃべる。
「今日の俺は俺ではなくて、君が知らない俺で。よくわかんないと思うけど俺今社会人で」
「何も自慢できることないし、未来で君が俺のこと見かけたらがっかりすると思うんだけど少し大目に見てあげてよ。浮かない顔してると思うから後ろから思い切り蹴飛ばしてあげてよ」
「強すぎると困るけど、とにかくもっかい顔見たくて、そう思ってたら過去に飛んでたってわけだから、様子が戻ったら今見たこと忘れてほしい」
相手の反応も見ず、ずっとひとりで話してしまった。
カナの様子は何というか驚きを通り越した顔をしていた。
後悔先に立つ 青 @mizukiki
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