第9話 約束

 カナに対して何かしらのアプローチをとらなければいけないことは確かであったが、メッセージ上のやり取りで未来が変わるはずもないと分かっていた。直接会ってカナと話すことが一番大事だろう。


サトルは長考の末にカナと大会が終わったら会う約束をすることにした。


サトルの日常は部活が中心だったので自分からカナを誘うことは少なかった。カナから誘われた時にはサトルがカナと会うために頑張って時間を作るというのがいつもの流れだった。


 休み時間にサトルはカナのところへ行き、約束について話した。カナも珍しいサトルからの申し入れに驚いていたがそれが逆に良かったのか快く承諾してもらえた。普通のカップルなら男から誘うことなんて珍しくもないことだがサトルは例外だった。


とりあえず約束はできたわけだし、大会にむけてひとまず頑張ることを決意する。現代のサトルにとって久しぶりの運動であったが高校生の体はとても軽く良く動いた。自分もこんなに動けていた時代があったのかと感動するくらいであった。


後悔の中で迎える三日目、準備万全のコンディションで大会を迎えることになるが結果は過去と同じベスト16止まりだった。後悔の中もそこまでうまくできてはいない。


早々に大会も終わり、カナとの約束の日になった。


引退したサトルに残されたものは大学受験のみとなった。二年生はここから本格的な受験モードをむかえる。校内テストも近づいているのでカナと会うチャンスもそう多くはなかった。


今日の休日の予定は少し遠出することになっていた。カナが景色やイルミネーションが好きだったことを思い出し、サトルから場所を提案したのだった。


二人で行けることがよほど嬉しいのかカナはいつもよりもテンションが高い様子だった。サトルの中身は立派な社会人なので、自分の高校生の時よりかはよほど気が回る。カナを楽しませようと全力で頑張った。


目的地に着くまでの二時間くらいは電車に揺られるわけだが、カナとこうして二人になる時間すらなかったと感じる。作ろうとしていたのかと聞かれると怪しいところであった。カナの話は止まらなかった。サトルが話を切り出すタイミングはなく、学校であったことや最近カナが夢中になっていることの話で持ち切りだった。


サトルはそんな時間すら居心地良く感じていた。優しく透き通る落ち着く声で可愛い笑みをこちらに向けながらしゃべるその姿は「可愛い」という言葉では物足りないと感じるほどだった。


サトルは当初の予定を大幅に崩してカナとのおしゃべりを目的地に着くまでずっと続けることにした。電車に乗っている時間だけでは足りないくらいしゃべる話題には困らなかった。


電車がゆっくりと止まり、目的の場所へとドアが開いた。

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