第8話 意味
またしてもすぐに目が覚めた。
「後悔の中だ」
サトルはすぐに分かった。ノートに記したことが明確ではなかったため、どこから始まるか分からない。部屋を見渡して高校時代であることは分かったが、まず学校まで行ってみないことには正確な情報は得ることができなそうであった。
サトルは初めて「付き合う」という経験をしたため、記念日に疎かった。世間一般的にはカップルは記念日を大切にし特別な思い出にしようとするものだがそんなに難しいことはサトルにはできなかった。
もし知っていたら、「後悔」に入った時に日付を確認して状況を知るための貴重な手掛かりになっていたであろうに。サトルは自分を責めた。
悩んでいても仕方がないので学校へと足を進めた。
登校している途中、サトルは平静を保つのが難しかった。頭の中を埋め尽くしていたのは「もう一度カナに告白しなければならないのか」ということだった。一度は成功しているのに今の自分が告白しても正直成功する気がしなかった。
ノートが送る「後悔」の先には必ず意味がある。それは何か行動を起こせば未来の結果が大きく変わる決定的なものだ。
今回もカナとの間に何かきっかけがあるに違いない。まずそこに気づくことができるのか。更にはそのきっかけに対してサトルがどのような行動をとるのが正解か、それを考えなければならない。
もちろん正解なんてわからない。自分で答えを導き出すしかないのだ。老人が言っていた「自分次第」という言葉の重みがサトルにのしかかる。
学校に着き、顔の知っている友人が二年生のクラスに入っていったことを確認し、当時の自分のクラスに恐る恐る入った。微かな記憶を頼りに自分の席へ着くとクラスメイトの一人が声をかけてきた。
「サトル、試合お疲れ様」
どうやら部活の大会が進行しているようだ。
「ベスト16までは順調に勝ちたいよな。これ負けたら俺ら引退だし」
最後の大会であることも分かった。
「俺の試合、次はいつだっけ?」
「明後日だろ、自分の試合なんだから忘れんなよな」
明後日ということは試合までカナと放課後に会うことは難しそうだ。「後悔」の中にいつまでいれるのか分からない。何か行動を起こさなければ。
まだクラスにカナの姿はなかった。心臓の音が外に漏れてしまいそうだった。カナの顔を見るのは数年ぶりになる。久しぶりに会ってひ何を話せばいいのか分からない。むこうにとっては久しぶりではないわけだし、そもそもサトルがカナに話しかけ行くことは少なかった。
何も考えないように時計を見ていると、カナがクラスに入ってきた。
整った顔立ち、高くない背丈、サトルがよく知っているそれは紛れもないカナだった。
お互いに目が合う。むこうからカナが近づいてくる。声がうまく出ない。サトルが声を振り絞って出そうとしていると「おはよ、サトル」と明るい声が聞こえた。
「おはよ」
なんか低い声になってしまったが、何とか声を出せた。
カナを見ただけで抱いていた不安が嘘のように消えていった。
「ここからだ」
焦ってはいけないがサトルには時間がない。
カナとの関係が衰退していったのはこの大会期間中だ。ここで何か行動を起こさなければ同じ未来を見ることになる。
ホームルームの鐘がなった。
サトルは先生の話には聞く耳を持たず、ずっと考えていた。
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