第7話 願い

連絡の内容はサトルにとって想像のつかないものだった。


 サトルとカナのメッセージのやり取りは互いに短い文章ではあるが、心の通った会話であったと思っている。しかし、ある日を境に連絡が返ってくるペースは遅くなりカナからは淡白な返事しか返ってこなくなっていた。


そんな日が何日も続いた後の連絡だった。


いつもより長くて不自然なメッセージからサトルは別れの話だと気づいた。


 サトルからすれば突然の出来事であった。まさか別れを切り出されるとは思ってもみなかったのだ。何度もメッセージを読み直すのは字面は残酷なままだった。


こういう時、どういう行動をとるのが正解なのか分からなかった。結末は変わらないだろうし、しつこくするのも気持ちが悪い。


サトルは数日間、学校へ行っても考える力を失ったままであった。カナとの途中からの関係を考え直してみたところで別れを切り出された理由がぼんやりと浮かび上がり、それは徐々に明確なものとなっていった。


 サトルはこの大きな後悔に対してノートを持った今も答えが出せないままでいた。あの時の自分に何が足りなかったのか、情けないことに思いつかないのだ。人間として未熟で何もかもが不足していたのかもしれない。しかし、そのことを高校生の自分に求めるのは違う気がしてならなかった。


結局、カナとどうなりたかったのだろうか。お互い違う大学を目指していることは知っていたし、そうなれば遠距離になって別れるのも無理はないだろう。しかし、結果が一緒ならそれでいいのか。それならノートを使ってもあまり意味の生まれないようなことだと思った。


「違う、そうじゃない」


後悔していたのはそこじゃない。サトルは自分自身で気づく。


自分はただ会って話がしたかったのだ。たとえそこでカナからされる話が別れ話であったとしても構わない。ただのメッセージ上のやり取りだけで二人の関係が終わってしまったことが一番の後悔だったのだ。


 今のカナがどうしているのか、どこに住んでいるのか全く知らない。今のサトルをみたらカナは覚えてくれているのだろうか。顔を忘れられていたら少し悲しいな。さえない様子を見て心配してくれるかな。


 サトルは付き合い始めからのカナとの思い出が頭の中で次から次へと浮かび上がってくるようだった。


 ブラック企業に慣れ始めて、仕事のことだけで毎日が過ぎていく感覚だった。過去を振り返る時間なんてなかった。忘れるようにしていたのかもしれない。しかし、このノートを手に入れてから自分の後悔について考えるようになり、それが忘れかけていたカナとの時間を思い出させてくれた。


 サトルはノートのページを開き、迷うことなく書いた。

 

「カナに会いたい」


後悔というより願いのようなものだが、そんなことは気にせずに眠りについた。

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