第6話 別れ
お互いにシャイな性格であったが、二年が始まるころにはサトルは勇気をもって告白し、カナを自分の彼女にすることができた。
付き合ってみてわかったのは、カナも恋愛経験が浅かったということだ。カナは誰からみても魅力的に映るだろうし、当然彼氏の一人や二人くらいは付き合っているものだと思っていた。
しかし、告白されても断り続けていたのは中学生からだったらしく今までひとりも「彼氏」と呼べる人はいなかったらしい。
サトルはカナにとっての初めての彼氏という事実を誇りに思った。サトルには一度も交際経験はなかったので付き合っても何をしたらいいのかは分からなかったし、そんなサトルを見てカナが落胆するのではないかと危惧していたからだ。
彼女ができたとはいえ、サトルの日常が忙しいことに変わりはなかった。カナと会える時間を頑張って捻出し、二人の時間を作るようになった。
互いに恋愛初心者ということもあり、二人で過ごしていた時間のそのすべてが素晴らしいものであったようにサトルは感じていた。今までしてこなかった恋愛の答え合わせをしているようで、それを好きな人と共有することが楽しかったのだ。
多忙なサトルにとってカナと会う時間を作ることは容易ではなかったし、疲労が心配になることではあったがカナといる時間はリラックスできて部活での疲労を忘れさせてくれた。しかし、そんな日々も長くは続かなかった。
二年生になると本格的に受験モードあるいは部活の引退の時期も迫っていたので部活モードになる生徒が多かった。サトルもそのうちの一人で、特に陸上部にとってかなりきつい時期へ突入した。
部活の試合と学校のテストや長期講習の時期が重なり、カナと会うことは難しくなった。試合の時は遠征に出かけるし、電話をしようと思っても負けたら引退が迫るこの時期に練習と試合で結果を出すこと以外はサトルに考える余裕はなかったのだ。
カナもサトルの忙しいことは十分に認識していたし、勉強モードに切り替えなければならないのはカナも同じであった。カナは部活には入っていなかったが、周りの人と比べて勉強に遅れを感じるようになり、この時期から塾に通うことを決意したのだ。
カップルという関係でなければそうなるのは必然であったし、少し連絡が取れなくなって二人の時間が減るからと言って関係が途切れてしまうことはないだろうとおもっていた。しかし、カナの方はそうではなかったのだ。
連絡をあまり取らなくなったことに不満を感じているわけではなかった。サトルが学校でもあまり話しかけてこないことにカナは疑問を感じるようになっていたのだった。連絡も取らないし、二人で会話をすることもないこの関係を果たして続ける意味があるのかと。
自分の存在がサトルの部活や勉強に邪魔になっているのではと感じるようになり始め、カナは別れを伝えることにしたのだった。
サトルのことを嫌いになったわけではなかった。お互いのためになると思っての別れ話だった。
要領の悪いサトルはそんなカナの気持ちに全く気付いていなかった。部活のシーズンはそこに集中していたのだ。知らないうちにカナのことを考えないようにしていたのかもしれない。
試合はベストを尽くしたつもりではあったが、大学から推薦されるほどの成績は残せずに引退をした。
ある日の夜、勉強がひと段落して休んでいると一通の連絡が来た。カナからの連絡だった。
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