第5話 きっかけ
その出来事はサトルの人生にとってよくも悪くも大きな出来事だった。
サトルは大きな恋をした。
高校生の時だ。彼女は学年でも上位の人気でよく知られていた。性格は物静かで真面目なイメージだが仲の良い友人と話している笑顔が可愛くて素敵で、魅力にあふれる女の子だった。
名前はカナといった。サトルがこの名前を忘れることは決してないだろう。それくらい鮮烈に深く思い出に刻まれていたのだった。
サトルの高校時代はとにかく忙しかった。というのも陸上部に所属しており、そこそこの強豪であったため練習は厳しく長時間の練習が多かった。加えて学校の成績が悪いと部活の練習に参加させてもらえなかったため、勉強でも手を抜くことはできなかった。それでもサトルは自分で選んだ道を後悔することはなく充実しているとさえ思っていた。
その頃のサトルには恋愛の二文字は頭に浮かばなかったのかもしれない。そんなサトルにカナは密かに好意を寄せていた。
サトルの顔立ちは悪い方ではなかったし、不器用だが優しい心を持っていた。
サトルの人間としての良さをカナはよく理解していたのだった。
カナが好意を寄せていることを知らないサトルは、一年からカナと同じクラスであったのにもかかわらずカナの存在すら認識していなかったのだ。それくらい忙しかったと言った方が正しいだろう。
最初にアクションを起こしたのはカナの方だった。クラスのグループラインからサトルの名前を見つけ出し、メッセージを送ってみることにしたのだ。カナは自分が認識されていないことを分かっていたので連絡をとれば多少なりともサトルが意識を向けてくれるのではと考えたのだった。
カナはサトルについて思っていることを親しい友人に打ち明けていた。カナは学校での男子人気が高かったので狙っている人も少なくなかった。しかし、相手の申し出に対してカナが承諾したことは一度もなかったのだ。そんなカナが好意を寄せている人なだけあってカナの友人はとても興味を示していた。
サトルに対するカナの友人の評価は意外にも高く、みんな賛成してくれていた。
初めてメッセージをもらったあと、サトルはカナのことを目で追うようになった。
当然だ。女子から連絡なんて来たことがなかったし、初めてメッセージをくれたのがかわいい子だった場合、意識せずにはいられないのが普通の男子だろう。
メッセージが届いた日を境に連絡を取り合うようになり、サトルとカナの関係は少しずつ恋愛関係に近づいていったのだった。
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