第4話 違和感

メールで言われた場所に行ってみると、サトルが「後悔」の中でじゃんけんをした仲良しグループの面々が揃っていた。


「久しぶりだな」

そう声をかけられるがサトルには違和感しかなかった。

後悔の中であったとはいえ、中学を卒業してから一度も会っていないメンバーにお互い話したいことがたくさんあった。思えばサトルは就職してから友達と会って話したことなんてなかった。


 会話も進み、各々の近況報告も済むと話は昔の思い出話へと移った。


「中学と言えばやっぱり修学旅行のことだよな、あれは事件だったな」

そこにいるメンバーは修学旅行というワードを聞けばサトルが一人だけグループに入れなかったことだとわかるだろう。 


サトルが何か反応しようとした次の瞬間、

「こいつだけ別の班になったよな」

そういって誰かが指をさした先はサトルの方向ではなかったのだ。


みんなは昔を懐かしむように笑っていたが、サトルの表情は硬かった。


 サトルは家に帰りノートを眺めていた。

「後悔を取り戻すノート」それは取り戻した先の未来まで変わってしまうということなのだろう。


このノートは軽々しく使うものではなかった。修学旅行のじゃんけんはサトルにとっては小さな後悔の一つに過ぎなかった。「後悔」のまま残しておけば仲良しグループの会にサトルが呼ばれることはなかっただろうし、修学旅行の一件があってから仲良しグループとは気まずくなり、卒業のころにはサトルとグループの間に距離ができていたのだった。


卒業した後には連絡なんて一回もなかったし、会うこともないだろうと思っていた。

それがノートを使ったことにより急に連絡が来て、みんなの記憶まで違うものになっていた。サトルがあの時目にした光景はホラーのようなものだった。


 翌朝、サトルは会社を休んであの老人のもとへ訪ねることにした。


人目を避けるようなその店を見つけ、中へ入るとサトルが来ることを分かっていたかのようにカウンターを挟んで立っていた。


「後悔をひとつ、解決したようだね」

「未来まで変えるなんて聞いてないぞ」


「ではノートを返すかい、君はそうはしないだろうな」

返す言葉が見当たらなかった。


「言ったろ。ノートは君に必要なんだ」

「君ももうわかっているようだがそのノートは未来にも影響を及ぼすんだ」

「私は人を見る目がある、君はノートを悪用する人ではないだろう」


サトルは不器用な人間であったがとてもやさしくまっすぐな人間だった。

老人はそのことを既に知っているような口ぶりだった。


「ところで君、もっと大きい後悔あるだろう」


老人の言う通り、サトルには一番後悔していることがあった。それをノートで解決するべきなのか迷っていたのだ。


「もう後悔はしたくないだろう、決断する勇気を持て」


サトルは大きな後悔を取り戻すことに決めた。





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