第3章 猛者達の一次リーグ

Phase1. デュエル

第37話 デュエル街

 “四天王”ケッパ呪崎のろいざきの敗北から一夜、その男は包帯も外さないまま、医務室を出た。

 レースが出来ない程の傷は、既に治った。医師からそう言われた瞬間、彼は歩みを始めたのだ。




 庵堂あんどうハシルは、これより一次リーグへの再戦を挑む。




 ――一言くらいは、話せたら良かったんだけどな。


 三次リーグ進出を決めた一条いちじょうソウとは試合後、一度も顔を合わせていない。情が移りたくない、というハシルの意向から、連絡先の交換もしていない。

 少しだけ残念だ、とハシルは思った。




 ここからのハシルは、ただひたすらに、優勝を目指して戦う。

 自分にとっては荷が重い目標だ、とハシルは自覚している。だが、これがナナを救う最善の策と信じ、戦う事を心の中で誓った。

 たとえその戦いを、今の彼女が見ていなかったとしても。いずれ彼女の目に届くと信じて。




 一次リーグ復帰を果たしたハシルには、運営より地図が渡された。

 参加時に渡される、一次リーグ用の地図とは少し違う。敗者の待機部屋。そこより復活したレーサーが通る、一次リーグへの通路。隣接する、二次リーグ用のショップ街も載った地図だ。


 ――二次リーグ進出者向けの地図と、兼用なのか? ……敗者から復活した、褒美のつもりか?


 地図を眺めながら、ハシルはこれから自分に待ち受ける戦いの数々に、思いを馳せた。


 ――アルティメット・カップを優勝するために、戦うレースは……




 <一次リーグ>。

 参加したレーサーが、最初に戦うリーグ。

 八人でレースをし、四位以内に入れば次のレースに参加できる。また、順位に応じて機体を改造するための通貨「リワード」を得られる。

 四回のレースで四位以上を取れば、二次リーグへ進出できる。

 五位以下を取った瞬間、レーサーは敗者として敗者復活戦に回される。


 <二次リーグ>。

 一次リーグを勝ち上がったレーサーが挑む。

 レーサー四人と「お邪魔キャラ」四人の計八人で三〇分間、フィールド内で撃墜し合う。自身以外の全てのレーサーを撃墜するか、三〇分後に開放されるゴールゲートを最初にくぐれば、勝者となる。

 勝者は、他のレーサー三人の、全てのリワードを獲得出来る。

 二度の試合で勝者となった者は、三次リーグへ進出。

 一度でも敗北したレーサーは、一次リーグへ戻される事となる。


 <敗者復活戦>。

 一次リーグで“敗者”となったレーサーが参加させられる。

 後述の二次リーグに「お邪魔キャラ」として参加し、出場レーサーを一機でも撃墜できれば、もう一度、一次リーグから大会に参加する事が出来る。

 出場レーサーを一機も撃墜出来ずに終わった場合、その“敗者”は奴隷オークションに送られ、奴隷としての余生を送る事となる。


 庵堂ハシルおよび加賀美かがみレイは、敗者復活を果たし再度、一次リーグに挑む。

 屋雲寺やうんじナナおよび高田たかだルークけいは敗者復活に失敗し、二日後、奴隷オークションへ送られる予定となっている。


 <三次リーグ>。

 二次リーグを勝ち上がったレーサーが挑む資格を得る。

 その詳細は、実際に勝ち上がったレーサーにしか伝えられない。

 三次リーグ進出者があまりに少ないため、その内容は噂でも流れていない。しかし。

 三次リーグを越え、決勝へ進んだ者は大会創設以来、一人もいないと言われる。


 二次リーグを突破した一条ソウは、これより三次リーグへ挑む事となる。


 <決勝>。

 世界最強のレーサーとの勝負、と噂されている。

 しかし、決勝に到達した者が存在しないため、この噂も都市伝説に近い。




 ――まずは、一次リーグ突破。いや……


 ハシルは、一本道の通路を抜けた先で、足を止めた。


 ――まずは、ここか。




 そこは、夜の街を思わせる薄暗い空間に、眩しい明かりの灯ったビルがいくつも建ち並ぶ場所だった。


 街からは、絶え間なく機体のエンジン音、そして、魔法攻撃の爆音が鳴り響く。




 ここは個人同士の賭けレース場。通称「デュエル街」である。




 ――敗者復活の後、最初にここへ通されるとか……嫌がらせか?


 「デュエル街」では、自由に個人同士での賭けレース「デュエル」がおこなわれる。

 賭ける対象は、自分自身。リワードを賭け、個人同士でレースをし、リワードを奪い合う。

 この街に勝ち上がりや敗退は存在しない。リワードを大量に獲得し、機体を大幅強化する者がいれば、リワードを全て奪われ、失意のまま大会へ戻る者もいる。


 「デュエル街」には、大会に参加した当初から自由に出入りできる。ただ、大会に参加したてのハシルは、ここへ行ってみようとも思わなかった。

 街の性質上、立ち寄っただけでリワードを狙うレーサーに絡まれる事は明白。当時のハシルはそれに、何のメリットも感じなかったからだ。


 ――レースの結果は、運も左右する。「デュエル」なんて博打ばくちみたいなもん。大会自体が博打なのに、これ以上の博打なんてやってられるかよ。


 ハシルは、街へ足を踏み入れる。


 ――……って、あの時は思ったっけ。




「庵堂ハシルだな?」


 待ち構えるように立っていたのは、ガタイのいいタンクトップの男と、その取り巻きの男達だった。

「待ってたぜ、テメェが来るのをよ」

 ハシルは、男に見覚えがある。

 二次リーグでソウに負け、敗退した男。“ハイエナ”虎畝とらうね星光せいこうだ。


「テメェのオトモダチのせいで、俺はこんな所で、ちまちまリワード稼ぎをしなきゃならなくなった。テメェからも、しっかり頂かねぇとなあ」

 虎畝は、弱者を見下す醜悪な笑みを浮かべる。

賭けレースデュエル、しようぜ。ボコボコにされたくなきゃあな」

 そう言って、虎畝は足下に倒れている女性の頭を踏みつけた。


「おい」

 その光景を見て、ハシルは怒りを覚えた。

「何やってんだ?」


 ハシルの視線に気付いたのか、虎畝は足下を見下ろす。

「ああ。何って、ちょうどいい所にこの女レーサーが来たから、暇つぶしにデュエルでリワードを頂いたんだよ」

「なんで倒れてるんだ?」

「あ?」

 ハシルの目つきに敵意を感じたためか、虎畝の眉が不機嫌にねじれる。

「持ってるリワードが少なすぎたから、これから稼いで貢げって言ったんだよ。だが、この女は生意気にも嫌がりやがった。だから、お仕置きだ」

「稼ぐ?」

「分かんねぇのか? この女なら、身体使って男騙せば奪い取れるだろ。そうやって強者に資金を献上するのが、弱い奴の義務だ」


 虎畝は、女性の身体を蹴り飛ばす。

「ぎゃあっ!」

「うるせぇな、邪魔だからどかしただけだろ。きたねぇ声、出すなよ」




「俺が勝ったら」




 ハシルは言った。


「その女性ひとから奪ったリワードも、全部よこせよ」


「あ?」

「俺が負けたら、リワード全部やるよ。足りないなら、稼いで持ってくる」

「テメェ……」


 虎畝の顔が、苛立ちに歪む。


「何、俺に勝てるつもりでいるんだよ。殺すぞ」




 ――「デュエル」なんて博打みたいなもん。そう思ってた。


「納得いかないなら、『デュエル』でちゃんと俺に勝ってみせろよ」

 ハシルは、挑発する。

 否が応でもレース勝負をしなければ、相手の面目が保てなくなるように。


 ――でも、今は違う。博打じゃなく自分の実力で、俺は勝ってみせる。







<デュエル Betリワード:3,000>

1 虎畝星光(所持リワード:3,000)

2 庵堂ハシル(所持リワード:800)

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ダンジョンカートFREEDOM~凶悪アイテム撃ち合うサバイバルレースを「避ける」だけで勝つのは異端ですか? ぎざくら @saigonoteki

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