第11話 噂
食堂で突然現れた服部は、また突然ユウナに告白のようなものをしていた。
周りの生徒もその言葉に動揺を隠せず、自分の耳を疑っただろう。
「付き合ってくれ」という言葉はどういう意味かと聞かれたら、そういう意味だろとしか思えない。
そういう意味だから、その場の全員は完全に恋模様、ラブストーリーが展開されるのかと思った。
もちろん、ユウナも例外なく、そういうことだと思って焦っていた。
そう、焦りもしたし、少女漫画のような展開と舞い上がっていた。つい数時間前までは。
「…なんでだろう。わかっていたのに、わかっていたけど…。どうしてこうなったの!」
ユウナは王都の街でひどく、項垂れて脱力していた。
「何をしてんだ? あれだけ、興奮気味に俺についてきたくせにこんなところでサボるなよ」
「サボってんじゃないし! 別にちょっと期待しただけだし! あんたのこと、そんなふうに見てないから!」
「何を言ってんだ? それはさておきだ」
「さておくな!」
服部の動揺のない態度にユウナは勢いよくツッコんだ。
自分だけが舞い上がっていたんだと思って、恥ずかしくなった。
舞い上がっていた心はやがて冷めていき、萎んでいくように冷静になった。
「それで、なんでまたここにきたの?」
服部に呼び出されるがままに来た場所は腐敗死体が発見された、学園の中庭だった。
「俺さ、なんか納得いかねぇんだよな。この事件を起こした犯人が」
「それさ、ずっと言ってるような気がするんだけど」
中庭の地面を見ながら、そうつぶやく服部にユウナはまたかと呆れていた。
「この事件の犯人は四人も殺してんだ。犯人は死んだ人間になりすまして、三人の商人を殺してんだ。何かしらの情報を手に入れるためだと思ってたが特にそれ目的でもない、だったら何のために殺したのか?」
いつものブツブツと独り言をつぶやく服部にユウナはとある提案をする。
「情報が目的でないなら、何かの口封じとか?」
「口封じ、か。何を隠したかったんだ?」
「それはわからないわよ。ただ、なんとなくそう思っただけだから、気にしないで」
ユウナは自分が言った意見に自信が持てず、慌てて否定してなかったことにした。
だが服部はユウナの意見をまともに考えているように思えた。
「ね、ねぇ。そんなに深く考え込まれると……」
「なあ、アリエスタ。今夜、空いてるか?」
「は、はい……! なな、なんですか急に!」
服部は立ち上がり、ユウナに唐突に予定を聞いてきた。
その行動にユウナはまた、慌てているようで口調や言葉使いもおかしくなっていた。
「今夜、真相を突き止めるんだよ。あの路地にくれば全て、わかるさ」
「…ああ、そっちね。真相がわかるって、もう犯人はわかったって言うの?」
「いや。わかってないことはあるが……」
服部はタバコに火をつけ、煙を吹かす。
「
そう言う服部の目はギラギラと輝いているように見えた。
何かに対して執着心を燃やし、物事を追求していく姿はまさに職人気質だった。
——そして、決行の夜。
「うぅ、私はなんでこんなところにいるのだろう…?」
「今更、こんなとこで何を言ってんだよ」
ユウナは服部に言われた通りにあの路地、三人目の犯行現場へとやってきた。
以前来た時よりも清掃や整理されていて、今は普通の路地となっているが夜になると人通りが少なくなり、恐怖心やが増していく。
「そもそも、ここになんの用で来たのよ?」
ユウナが尋ねると、服部はタバコに火をつけてふかすと。
「なあ、アリエスタ。前に怪能力を持つ奴のことを教えてくれただろ?」
「ああ、そうだったね。それがどうしたのよ?」
「あれから怪能力ってやつを調べようとしたんだが、どの文献も歴史の本のどれにも載っていなかったんだ。それって、この世に本当にいるのか?」
ふいに聞いてきた服部は怪能力に関して知りたがっていたが、ユウナは困ってしまった。
というのも、ユウナ自身も怪能力についての知識はほぼ皆無だった。
そんな言葉を父から聞いたことがある程度でその詳細は厳密に知らされてなかったのだ。
「…そういえば、そういった類のものは確かに見たことがないわね」
「だろうな…。学園の書庫で本を漁ったが、それらしきものはなかった。つまりだ、俺はこの事件の犯人はその怪能力の仕業じゃいかと考えているんだ」
「怪能力が犯人って、どうしてそう思ったの?」
「さっき言っただろ。なかったからだよ」
服部は当たり前のように言うが、ユウナの頭の上にハテナマークが浮かんでいた。
「なかったから? ごめん、何を言ってるのかさっぱり……」
服部はタバコの煙をふかしながらユウナを見て、ため息をつく。
「何よ! 悪いと思ってるわよ! ごめんね、察しが悪くて!」
服部の呆れた態度に自分の察しの悪さに恥ずかしさで顔を赤らめていた。
そんなユウナを横目に服部は理由を説明する。
「お前も見ただろ、全身腐敗した死体を。あれは完全にこの世の理から外れている、ここには魔法や魔術などがあるが、人を腐敗させるような記述はなかった。ということは、この事件の犯人は魔力や魔術でもない者、つまり怪能力者に絞るしかない結論に至ったんだ」
「そもそも怪能力者はこの世界に存在しているか、わからないじゃない」
ユウナが否定するように言うと服部は少しムッとして言った。
「そこだよ、俺が気に入らないのは。噂でしかないのになぜ風化することもなく、ささやかれているのか?」
そう語る服部の目には怪能力に対して強い何かを感じた。
「ま、それはこれから探るとして。今はこの事件の犯人だが」
「あ、そうだよ。この腐敗の犯人は? なんかもうわかってるみたいな感じだったけど」
「ああ、もちろん。わかってる、なんなら
「・・・・・・・。え?」
ユウナは服部の言っていることがその時はわからなかったがその意味はやがてわかることになるのだ。
「ほら、来たぞ。この事件の重要人物が」
服部が口角を上げながら見るその目線の先には黒いローブを纏った人物の姿が何も言わず、ただひっそりと立っていた。
「…誰なの?」
「誰って見りゃわかるだろ。この事件の主犯だよ」
「主犯…。ってこよは、まさか犯人がここに来るの!?」
服部は当然のように言いながらどこか嬉しそうな表情で主犯とそう言っていた。
それに引き換えユウナは服部の言葉に衝撃で驚き言葉が出てこなかった———。
異世界ハザード @TOVIrock
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