第4話 クロウの家。
『夢見の子を利用して罪悪感は無いの?クロウ』
《今回は特に進んで申し出て下さったので、全く無いですね》
「復讐はそう勧めないが、今回は復讐だけ、では無いしな。うん、アリだ」
『ごめんねグレース、殺す以外でお願い』
「もう満足しているから心配するなジェイド」
《はいはい惚気ないで下さい流石に殴りますよグレース》
「尻か腿にしてくれ」
《このやり取り、何回目ですかね》
『僕の知ってる限り今世では2回目かな』
「あぁ、だな」
私達は何回も人生をやり直したが、所詮は限られた範囲の事しか知らない。
今世はかなり良い世になったと思っていたんだが、まだまだ、悪巧みをする者が
その1つが警備団。
騎士団とは、要するに国に雇われた兵士の集まり。
その中でも王の直属が近衛騎士団、王妃様の直属が女騎士団、双方共に序列的には別枠。
ただ近衛の少し下に女騎士団が位置している。
王こそ最高であるし、創立の日も浅く、元は近衛から出来た軍団だからだ。
そして騎士団の説明になるのだが、まぁ要するに王都防衛だなんだと細かく分かれるのが騎士団。
片や警備団は国から領主に管理を任せた、所謂下請け、国の直轄では無い兵士の集まり。
なのでまぁ、地方によっては緩い。
下手をすれば悪しき者が幅を効かせている事も有り、防衛指南と称して掃除に行ったり、そもそも視察団が向かい掃除したり。
良くも悪くも騎士団と衝突する事が多いのが、警備団。
だが近衛と女騎士団は別、王族直轄だからな、双方を裁ける。
うん、やはり良い制度だな、女騎士団。
『それで、僕らは何をしたら良いの?』
《控えです、既にアッシュ様が出てらっしゃいますので、そのご連絡も兼ねての事です》
「兄上が出てるなら私達の出番は無いだろうな」
兄上が所属するのは、影と呼ばれる組織、所謂隠密行動を得意とする者達の集まり。
コレも王族直轄。
近衛にも女騎士団にも、どうしても他の貴族の息が掛かった者が入り込んでしまう。
だからこそ、純粋に王族直轄の組織が必要となる。
近衛と女騎士団の中に謀反者が居れば、様々な方法で消される、本人だけで無く家族すらも。
大概は内部の自浄作用で片が付くんだが、偶に出て貰う事も有る。
もしかしたら居るかも知れない、そう思わせるだけでかなりの抑止力となる。
組織があまり細分化しても困るな、と思っていたんだが、確かに多少は細かくないと専横を許す事になってしまう。
けれども影が力を持ち過ぎてもいけない、だからこそ近衛と女騎士団から影への監視が必要となる。
双方の睨み合いによって均衡が保たれているらしいが、私は知らん、女騎士団の影の監視役はクロウだ。
しかも近衛の方の監視役は、私もクロウも誰なのかを知らない。
良く出来ている仕組みだと思う。
だからこそ残念でならない、警備団にもこうした仕組みを、と進言が有ったんだが。
理解する頭が無いのか面倒なのか専横したいのか、又はそれら全てか、組織改革は未だに行われぬまま。
問題は出ていないが、それはあくまでも表面化していないだけ。
だがクロウの巫女様、アンバーが夢に見てくれたお陰で、獅子身中の虫を探し当てられた。
コレで警備団の組織改革も進むだろう。
なのでクロウへの恩返しなど、コレで済む筈なんだが。
納得してはくれないだろう、と。
『巫山戯た性格なのに真面目な相手が好きですよね』
《一々余計な事を言わないと老年の方は気が済みませんか、成程》
「本当に仲が良いなお前達は」
こう言うと大体は言い合いが終わる。
男同士ならではのじゃれ合いらしいが、寧ろ両者共に私に構って欲しい故の言動としか思えん、意外と2人で居るとこんな言い合いは無さそうなのだし。
まぁ、良いか、馴れ合う事が全てでは無いしな。
《ぁあ、彼女が出て来たので、失礼しますね》
「おう、じゃあな」
『あまり虐めないであげて下さいねー』
寧ろ、僕の方が虐められている状態に近いんですよね。
「お待たせ致しました」
《いえ、では参りましょうか》
基本的には男子禁制である神殿に僕が出入りを続けるのは好ましく無いのと、彼女を物理的に囲う為、僕の家を住処として貰う事に。
名目は勿論、侍女、なんですが。
『いらっしゃい、確かお名前は』
「はい、アンバーと申します、宜しくお願い致します」
『そうそう、
「あぁ、産まれたばかりの時は髪が琥珀色だったんです、浮かれて付けてしまったそうで」
『そうなのね、ちょっとクロウ』
《はい》
『アレ本名じゃないの、お仕事で匿うって』
《仕事2割私生活9割です》
『10割越えちゃってるわよ?』
《それだけ気が有ると思って下さい》
『って前も騙されたのよねぇ』
《シッ、声が大き、ワザとですね》
『勿論』
《今回は本当です》
『はいはい、分かったわ、そう言う事にしておきます』
多分、コレは半信半疑なままだ。
前回の時もそう、ウチに入り込むか僕に取り入ろうとした者を同じ様に敢えて家に迎え入れたら、倒れるまで追い込んだ人。
病に倒れてから、完全覚醒したんですよね、この人。
《すみません、では案内しますね》
「はい」
ウチには部屋数と使用人が少ない、そして装飾品も何もかも。
質素倹約の見本の様な家に驚く者が殆どだ、財も何もかも有る筈なのに、と。
《ご感想は》
「質素」
《色々と理由が有るんですか、聞きますか?》
「是非」
《先ずは父の事です》
妾に隠し子、そうした事が発覚しヤケクソになった母親は、父親が居ない間に先ず家財を全て家からはこびださせた。
そこでゴネたり止めた者は、別室に送り他の用事をさせ、後に解雇。
嵐が過ぎ去ったと思い父親が帰って来た頃には、殆どもぬけの殻に。
「どんな顔をなさってたんでしょうね」
《そこは母からどうぞ、相当に良い顔をしていたそうですよ》
そして突き付けられたのは、離縁状。
真っ当な政略結婚だったからこそ、もしもどちらかに過失や
請求額は父親の家の使用人の件も含め、完全に身包みを剥ぐ額。
そして双方の家の親の署名付き。
要は離縁した場合、家は一切の縁を絶つぞ、と。
父親は観念して、全て母親の言う通りにすると条件を呑んだ。
全ては乳母の計画通り。
少しの間は大人しくしていたんですが、その乳母が亡くなり、再び父親が調子に乗り始めた。
それまでただ弱いだけの母は、病に倒れた後、強くなって目覚めた。
死の国で乳母に送り返されたのだ、と。
僕が怪我を放置されていたのを境に、再び家財を、今度は本当に家財を売り払い始めた。
怖くなった父親は平謝り、それまでは直ぐに許していた母だったけれど、許すのはコレで最後だと機会を与えた。
ですがバカな父親なので、甘やかす事は止められず。
果ては1人で家を出るか、庶子と共に家を出るか迫られる事に。
そして甘やかすだけしか知らない父親は、子を置いて家を出た。
それからも母は義姉を教育し続けた。
けれども性根を変えられる事は無く、貴族の子を孕んだ、と。
相手は自分だけじゃない、と男は認知を拒否。
それはどの相手も同じ反応で、自棄になった義姉はお腹に子が居ないと暴露。
お互い様とは言えど、迷惑を掛けたのはコチラ。
不妊にさせ父親の元に送り、母の家族の監視の元で慎ましく暮らしている、らしい。
「らしい」
《確認には行ってませんから》
「あぁ」
『懐かしい話をしてるわね、でも、お茶位は淹れてあげたら?』
《ぁあ、ありがとうございます、失礼しました》
「いえ」
『それで、私からも話したいのだけれど、良いかしら?』
「はい、是非」
この時ばかりは、仲が良さそうに振る舞ってくれていたんですが。
案の定。
母がアンバーを虐め始め。
《いい加減にして下さい。すみませんアンバー、家を出ましょう》
ウチの子って、まだまだね。
「あの、違うんです、コレは」
『私がお願いしたの、ウチの子が良い子に育ってるかどうか、確かめたくて』
《は?》
『ワザとに決まってるじゃないの、アナタが本気だって事は分かってるわ、けれどアナタが良い夫になれるかどうかは別。守れるかどうか試しただけ、よ』
《アンバー》
「はい、マジで本当です、すっかり変わってしまったクロウさんと私を心配しての事です」
『あら、変わった自覚は有るのね』
《ですけど》
『それだけ前のアナタは酷かったって事よ。昔からアナタは頭が良かった、だからこそベッタリした親子でも無かった、それに家族としては歪んでいた。だからこそ付かず離れずでも良い、と思っていたけれど、結婚に全く興味も無く婚約者選びも適当。私が婚約に何か言っても、一瞥するだけ、会話なんて殆ど無かった。けれど長い仕事から戻って来て、アナタは凄く変わった』
婚約者の粗探しをしっかりして、婚約破棄。
仕事も意欲的にこなし、あれだけ固執していた近衛の職を辞め、女騎士団の受付に。
そして私に仕事を家に持ち込むが、良いか、だなんて。
無かったのよ、今まで。
確認すらも。
「それなら流石に心配するだろうな、と、万が一にも私に誑し込まれて無い証明もせねばと思いまして、協力させて頂きました」
『ほら、こんな良い子を気紛れに傷付けたら流石にどうにかしてやろう、そう思っていたのだけれど。ちゃんと分別も付いてるし、まぁ、良いわ』
《今まで、すみませんでした》
『良いのよ、最初からしっかり守ってあげられなかった母親だもの、疎まれて当然だわ』
《違うんです、どうしたら良いか分からず、ただ放置していただけなんです》
『はいはい、アナタがしっかりしてくれていれば良いの、どう思われるか気にする程に軟弱では無いもの』
《だから本当なんですってば》
『私よりこの子よ、決して裏切ってはいけないわ』
泣いて喚いて嘆いて、そうすれば誰かが助けてくれる。
母親になった後も何処かでそう思っていた、けれど守っていてくれた乳母は亡くなり、あまりに弱い私を使用人達は当たり障りない対応で流すだけ。
そうした態度に傷付き、病に倒れている間に、クロウが怪我をしてしまっていた。
私は私の弱さに甘え、大事なクロウを死に追い遣ろうとしていた、怪我が膿んでしまっていた。
この子は熱に強い子で、誰も異変に気付かず、下手をすれば死んでいたと医師に怒られた。
私より弱い子を、私が守るしかない。
そこでやっと母親としての覚悟をして、実家と相談し、夫を家から追い出す事に。
その事は今でも罪悪感として残っている。
けれども母親、子を守れるのは私だけ、だからこそ妾の子も教育した。
でも失敗したまま、舐められた母親は舐められたまま、もうどうしようもなくなり夫の居る実家に送りだした。
クロウは頭が良い子だから、特に躾けは苦では無かった。
けれど大きくなるにつれ、私への態度は冷たいものになっていた。
当然なのだ、と、私は受け入れるしか無かった。
親が子に媚びては家が傾いてしまう、だからクロウに合わせ、同じ距離を保つ事にした。
そして失敗する前に諫め、言うべき事は言う、例え嫌われても。
それが私に出来る事。
失敗してしまった母親が出来る、数少ない事だ、と。
なのに、急に良い子に変わられたら、戸惑うじゃない。
まるで別人なんですもの。
「あの、追々、ゆっくり、話し合われるのが1番、かと」
《無理にとは言いませんが、可愛げが無い子供だった償いを、させて下さい》
『あら嬉しいわ、泣いちゃいそう。下がってクロウ』
《はい》
クロウが連れて来た子で、1番に良い子のアンバーちゃん。
黙って傍に居てくれる、良い子ね、本当に。
『私の失敗談を、聞いてくれるかしら?』
「はい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます