第16話自慢の兄(リン視点)
伊佐ナツメは、変わっている。
さすがキイナの息子だなと実感する。
それにやっぱりあの父の影響も多少はあると思われた。
リンはいつだって視線を集めてきた。ユウナと一緒にいれば尚更に。だから、より自分に視線が集まるように努力してきたところもある。親友はあまり目立つことを好まないからだ。
代わりに矢面に立つような気持ちだったともいえる。
そんなリンとユウナと一緒に歩いてくれる友人は実は少ない。憧れめいた尊敬を受けたり、敵愾心を抱かれたりと正負の強い感情を向けられることが多いからだ。
普通に、ただの女子高生の友人として見てくれることがほとんどない。
だというのに、ナツメはこれまでの誰とも反応が違った。
街を歩くと受ける視線も、全く狼狽えない。それどころか、リンに憐れみめいた視線を寄越す始末だ。
そんな目を向けられたことは初めてで、リンの方こそ戸惑った。
羨望とか嫉妬とか、無縁なのかもしれない。
もっさりとした見た目の陰キャだけれど、なぜか堂々としている。
それこそ、キイナのようだ。彼女はいつだって自信に満ちていて、恐れない。芯の強い女性だ。
自分の母とは大違いで、本当に憧れる。
あるがままで、なんでも受け入れてくれる度量の広さもある。
リンは昔から兄が欲しかった。
キイナと父から聞くほどに兄に憧れた。
キイナや父の語る兄の姿は、何処までも格好よくてまるで漫画やドラマのヒーローみたいだったから。
たった一人で母を支えているところ。
頑固だけれど、きっちりと筋を通すところ。
曲がったことが大嫌いで、正義感に溢れてるところ。
だから父は嫌われているのだと、しょんぼりとしていたけれど、それでも誇らしげで嬉しそうだった。
そんな父を慰めるキイナを見ているのが好きだった。
そんな両親を持つ兄が少し羨ましくもあり、だから近づきたかった。
同じ高校になるように、必死に勉強だってした。
ユウナは余裕だったけれど、進学校なんてリンの頭では簡単には入れなかった。
そうして頑張ってきて、ようやく出会えた。
あまり会話らしい会話もできなかったけれど、彼を知れば知るほど、一緒にいたいと願ってしまう。
頑固なところは怒ってしまったけれど、実は内心で可笑しかったというのもある。本当に話に聞いていた通りだったからだ。
何より、ナツメが兄でよかったなと、リンは噛み締めた。
妹が2人いる!? マルコフ。/久川航璃 @markoh
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