第8話
向かった先——生徒玄関近くの廊下には、二人の女子生徒が立っていた。
一人は、
そして、もう一人が……。
「
そのあと、鞄からハサミを取り出して、13番目のロッカーに入っていた上履きの紐をキズつけようとした。証拠の動画も、撮ってある」
名簿番号14番。1314。その生徒が、事件の犯人か。僕はポケットから、名簿表を参照にしてメモした生徒の名前を確認しようとした。
が、
「名簿番号14番。
そう呼ばれた女子生徒——
「わたしには、権利があるの。クラスじゅうのものにキズをつける権利が」
僕も
権利?
「仕返しの権利。報復の権利。わたしね、
「
「わたしね、
わたし、もうほんと嬉しくて幸せだった。あぁ、今年も好きな人のとなりで過ごすことができる。
そう思えば、わたしもう舞い上がって……。
わたし、
五月の初めに。
ずっとずっと好きだった。だから、わたしと付き合ってほしいって」
「でも、フラれちゃった。『ごめんなさい』とか『恋人としてみれない』とか、そういう無難な言葉じゃなくて、もっと酷い言葉で。
気持ち悪いんだって、わたし。女の子が女の子を好きになる意味が、
それ以降、
わたしは、クラス内で程度の低い扱いを受けても当然の存在になった。三組内に流れる空気が自ずと、わたしにとって不都合なものへ変化していった。
担任に相談しても、まともに取り合ってもらえない。周囲に助けを求めても、わたしは軽んじられる存在だから無視される。
……ねぇ、ここまでくれば、わたしにも報復する権利は生まれてくるよね? 二人も、そう思うよね?
だからわたしは、わたしなりにルールを決めて、憎い三組に対して仕返しをすることにしたの」
「ルール?」
僕が訊ねると、
「そう、ルール。
といっても、罵られるのは毎日のことだから、当然毎日ザクザクしちゃうんだけどね。だから反復作業もすぐに飽きちゃって、そうすれば、もうちょっとぐらい遊び心を持ってザクザクしたほうが楽しいんじゃないかって思えてきて。
それで思い浮かんだのが、名簿順に一人ずつクラスメイトの私物にキズをつけていくこと。できればクラス全員のものを切りたかったから、バレないようにクラス内でキズの情報が広まったらさすがに対象は別のものに移したけど」
僕も
「二人に見つかっちゃった以上、13番目——
ねぇ、わたしもわたしでそろそろネタ切れ気味なんだよね。クラスメイトが共通して持つものって、そんなに種類ないし。ネタが思いつかない日は、だからバケツとか黒板消しの紐とかクラスの備品を切ってたんだけど。
鞄、ジャージ、ハチマキ、上履き……。うーん、全然思い浮かばないや。二人は、次は何をキズつければいいと思う?」
僕は、彼女のその問いに答えるべきだろうか。
当初の目的は、犯人を捕らえることだった。けれど「犯人を捕らえること」で僕たちの遊戯はとうに片付いていて、彼女の首を三組に献上することまではその遊びのなかには含まれていなかった。
僕たちは、謎解きさえできればよかった。ようは、犯人に会えればそれでよかったのだ。けれど、必要以上に踏み込んだ結果、こうして
二人は、次は何をキズつければいいと思う?
僕は少し悩んで「悪いけど」と回答を拒否した。同情しかけた心に、厳しいけれど「常識」という鞭を打った。
なぜなら、僕は。
「僕は、共犯者になるつもりなんてないから」
つまんない返答、と
けれど、僕のとなりに立っていた彼女は違った。
「三組って、まだ一度も席替えしてなかったよね」
「そうだけど」
「じゃあ、教室にいるとき、席についているときなんかは簡単に切れるね。都合がいいことに、
「わたしが14番で、
「うん。
「……あぁ、なるほど。それね。なかなか素敵なこと考えるじゃん。生徒全員が持ってるものともいえるし」
僕だけが、二人の会話についていけない。
なにを、と僕が二人に訊ねれば、
「髪の毛。
推理は放課後、雑談より。 戸森可依 @todokakushi
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