聖なる夜に愛を誓う
ナナシリア
聖なる夜に愛を誓う
世間はクリスマスムードで、街にはクリスマスを代表する曲が流れてクリスマスツリーが設置され、人々は浮足立っている。
そんな中、彼氏持ちのはずの私は受験生でもあるため今日も塾があり、その流れに完全には乗ることが出来ずにいた。
だけど、そんな私も彼氏持ちだ。
彼とは同じ塾に通っているので、朝一緒に塾に向かうようにしている。
「
「
私の目の前に現れて声をかけたのは、彼氏の聖夜だ。
彼は名前の通り、今日が誕生日なので、よくクリスマスケーキと誕生日ケーキをひとまとめにされてしまうと嘆いている。
「聖夜、誕生日おめでとう」
「ありがとう。そこでなんだけどさ、今日塾を抜け出さない?」
今日は、朝から夜まで授業の予定が合計十二時間分も詰まっていて、本来ならクリスマスを楽しむことは出来ない。
だからこそ聖夜の提案がひどく魅力的だ。
「でもさ、あとから厄介なことにならない?」
「無理を強いることは出来ないな……。冬音が行かないなら、俺も普通に授業を受けることにする」
少し考える。
そうだよね。クリスマスなんだから、ちょっとくらい休んだって良いじゃないか。
「じゃあ、抜け出そう。代わりに、今日の分の勉強は聖夜が教えてね」
「もちろん、完璧にしてやる」
私たちは、向かう先を塾からショッピングモールに変更することにした。
「なにかしたいことある?」
聖夜は私に訊いた。
「そうだなあ……。あ、クリスマスソングをカラオケで歌うっていうのは?」
彼はあまり歌が得意ではなく、自分でもよく言っているが、私が歌おうと誘ったときはいつも一緒になって一生懸命歌ってくれる。
「冬音が行きたいって言うなら、行こうか。俺は歌があんまり得意じゃないんだけど」
でもこんな特別な日に聖夜が楽しめないようなことをするつもりにはなれない。
「そっか、二人とも楽しめる方が良いよね」
「それが一番だとは思うけど、冬音が行きたいところなら俺も行くよ」
聖夜はそう言ってくれるけれど、聖夜の誕生日くらいは聖夜の行きたいところに行きたい。
「聖夜が行きたいところ決めてくれる?」
「俺は、そうだな――」
聖夜は冬の海を見たいと言った。
実際に行ってみると、海の青色が夏とは違うような気がして、海の新しい色を知れた気分になる。
「夏の海は楽しげな色だけど、冬の海は悲しげな色だよね」
私が呟くと、聖夜は大げさに言った。
「すごく良い表現だ。なるほど、楽しげと、悲しげかあ……」
「私、国語だけなら点数でも聖夜にも勝ってるからね!」
「ああ、これは完全に納得できる表現だ……」
二人で海を眺めていると時間が飛ぶように過ぎていって、私たちが塾をサボっていることなど抜け落ちてしまう。
「見て見て、綺麗な貝!」
私が浜辺に落ちているものとか海から流れてくるものとか空に浮かぶものとか、雑多なものを発見しては聖夜が反応を返してくれる。
そのうちに気づくと日は沈み、海は橙に染まった。
「綺麗だなあ……」
「この海は、たとえるならどんな色かな」
聖夜の問いかけを聞いてぱっと浮かんだ言葉。
「寂しげな色……」
聖夜はにこっと笑った。
「夜はやっぱりイルミネーション見たいよね、聖夜」
「ああ。クリスマスと光は切っても切れない関係にあるよね」
街中は光で包まれている。
「綺麗だな……」
「来年も再来年も、ずっとこの光を聖夜と一緒に見たい」
零れ落ちた本音に、聖夜はなにも言わなかった。
いなくなってしまったのか。不安に駆られて隣を見ると、そこにいたのは顔を赤らめた聖夜だ。
「照れてるの?」
「ああ、そうだよ」
「ね、ずっと一緒だよ」
少し意地悪がしたくなって、私は言った。
「聖夜が十八歳になったら、結婚しよう」
日本の法律では、男性が結婚できるのは十八歳からだから、まだ聖夜は結婚できない――そういう意図で言ったつもりだったけど。
「俺、もう十八だよ」
「え?」
「俺の誕生日、今日だって言ってるじゃん」
その言葉が直接的なプロポーズになってしまったことに気づいた。
「ご、ごめん! 早すぎたよね……!」
「いや、最高のクリスマスプレゼントで、最高の誕生日プレゼントだよ」
聖夜は真っ赤な顔で口角を上げた。
「冬音、結婚しよう」
「親とか、大丈夫なの……?」
「無理を強いることは出来ないな……。冬音が嫌だって言うなら、一旦やめるか?」
少しも考えることはなく、私は答えた。
「じゃあ、結婚しよう」
聖なる夜に愛を誓う ナナシリア @nanasi20090127
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