最終話 逃げても追いつく青い春。
季節は巡り、私と
「ついに卒業したな」
「そうだね。ところで婚姻届けはどうする?」
「四月初旬でいいだろ」
「四月初旬の理由って?」
「三月末までは高校生だからな」
「ああ、そういう理由だったのね」
「ただまぁ、大学での手続きは面倒と思うが」
「しばらくの間は別姓でいくよ」
「別姓だと? それでいいのかよ」
「本当は嫌だけど、手続きがね?」
「ああ、面倒だわな」
巡君との交際を始めて二年と少し。両親が定めた許嫁もあって四月初旬に私達は婚姻する。
「この校舎も見納めか」
「定期的にOB・OGで顔を出すとか?」
「そうだな。それがいいか」
「
「だな。
「「そこは安心して任せて下さいよぉ!」」
在校中は様々な出来事があった。
一年の体育祭では巡君が本気を出して陸上部員達をごぼう抜きした。文化祭では私がミス
「悪い悪い」
「安心して任せるからね?」
「柚澄の尻は何がなんでも護りますって」
「椒君、それはちょっと」
「椒、そこは尻ではなく身体だろ?」
「そうでした! すまん、柚澄」
「椒君は私のお尻が大好きだもんね」
「うっ」
年を跨いだ冬の交流会では私を相手に告白してきた他校の男子生徒を巡君が伸していた。
俺の彼女に手を出すなと威嚇しながらね。
あれを思い出すと下腹がキュンとなった。
「但し、夏の交流会だけは注意しろよ」
「「いえす、さー!」」
二年に進級してからは、より濃厚な学校生活となった。
たちまちは補佐として加わり、私が生徒会長に立候補した際には手伝ってくれたりした。
巡君は縁の下の副会長だけどね。
「副会長もお元気で」
「今はお前が副会長だろうに」
「そうですけど」
「それはそうと兄貴の様子は見に行かなくていいのかよ? あれも卒業生だろ?」
「ああ、兄貴は兄貴ですので」
「兄貴? あ、美柑に座られてる?」
「ああ、美柑の尻に敷かれているからか」
「お姉ちゃん、ひと目の触れる場所で何を?」
「
「まぁ下はスパッツだから大丈夫でしょ」
私達が三年に進級した後は、柚澄ちゃんが生徒会長で椒君が副会長となった。
間のイベントではそれなりに大変だったけど楽しめた三年間である。それこそ一年生の頃の序盤だけでひと苦労した感があるよね。
「さて。戻り次第、荷造りしないとな」
「そうだね。引っ越し業者の手配はしてる?」
「問題ない。明日には取りに来るってよ」
「ところで二次会はどうする?」
「顔だけ出して帰ればいいさ」
「そうだね。そうしようか」
卒業式後、私と巡君も家を出る。
都会の大学に進学するので早々に家を借りて生活する予定だ。勿論、性活の方も定期的に行うけどね。勉強が一番、性活が二番、学内交流は三番という扱いになってしまうけど。
「新婚生活の場でもあるもんね」
「新婚である前に学生だからな」
「忘れてないよ。それは?」
「忘れてなくて安心したよ」
「もう! そんな巡君にはお尻触らせないよ」
「すまん。それだけは勘弁してくれ!」
私と巡君は校舎を後にする。
振り返ると巡君が最初に告白してきた屋上が見えてきた。あの時から交際に至るなんて当時の私には思いも寄らない結果だっただろうね。
「長いようで短い高校生活だったね」
「そうだな。俺も無事に卒業出来て良かった」
「よく言うよ。私の上に何度も乗ってるのに」
「
「私が言ってるのはベッドの話じゃないよ!」
「ベッドじゃない? ん? 成績の方か?」
「そうだよ。毎回一位は巡君だけだからね」
「毎回二位は恵だけだったがな」
「何度追い抜こうと頑張ったか」
「そこは仕方ない」
結果的に卒業するまで私は二位だった。
巡君は一位独走で卒業していった。
なので国家試験では追い抜く所存である。
私が巡君に勝てるのは夜の部だけだしね。
こうして高校を卒業した私達は新生活の場へと意気揚々と向かうのであった。
§
ベッドへと横になる恵が幸せそうな笑顔で眠っている。時刻は午前九時。あれから五度目を強請られて行い・・・気づけば深夜まで続いた。
「腰が痛いんじゃなかったのかよ」
「新居が、幸せ」
「どんな夢を見ているんだか?」
今日の予定は恵との買い物デートだ。
昨日、それを話し合って一日かけて遊び倒そうと決めていたのだ。なのに疼いた恵が襲いかかってきて気づけばこんな時間となっていた。
「一日は無理だから半日だけでいいか」
彼女の寝顔を見るのも彼氏の特権だしな。
俺は恵の寝顔と布団の隙間から見える白い素肌に意識を持っていかれる。途端に息子が元気になったので素数を数えて宥め始めた。
「何度見ても元気になるわ」
恵の身体は純粋に飽きないよな。
平たい胸も日に日に育ち、いつぞや見た平面が嘘のように大きく育っている。
同じ平面の妃菜先輩もそれなりに育っているので
俺は時計を眺めて起こすつもりで恵の唇にキスをした。
「ん」
舌を入れ舐めるようにキスをする。
恵は身じろぎしたと思ったら丸く目を開いて固まった。俺は口を離して笑顔で挨拶した。
「おはよう。よく寝られたか?」
「お、おはよう? あれ? 婚姻届けは?」
「何言ってるんだ?」
「え? あ、あれ?」
これは夢と現実が嚙み合わない感じだろうか?
恵はきょとんとしたまま室内を見回す。
「ここは巡君の・・・自室?」
「そうだが? 幸せ過ぎてボケたか」
「今、何才だっけ?」
「揃って十六才だろ」
「十六才・・・」
それを聞いた恵は途端に絶望した。
(何故に絶望するのやら?)
俺は首を傾げたのち恵の頬を優しく撫でる。
「どうしたんだ? 悪い夢でも見たのか?」
「ううん、良い夢だったよ。とっても良い夢」
「良い夢なら絶望する必要はないだろ?」
「うん。そう、なんだけどね」
どうにも煮え切らない恵だった。
それだけ夢の中の俺が良かったのかもな。
俺は嫉妬しつつ頬から胸元に左手を伸ばす。
「どれ、現実を理解して貰おうかね」
「ひゃん」
右手は恵の尻に伸ばして撫でていった。
恵は胸元と尻から感じる刺激で浅い呼吸を繰り返し頬を次第に赤く染めていく。
「どっちが現実だ?」
「こっちが現実だよぉ」
「それで、どうする?」
「お、お願いします」
どうにも恵の身体は感じ易い体質らしい。
その後の俺は嫉妬心を抑え込んだまま恵と共に励んだのだった。回数は覚えていないけど。
§
あんな幸せな生活が夢だったなんて。
「夢、あれが、夢? 夢に逃げていたの?」
「どうかしたのかよ?」
「ううん」
事後、巡君と共に買い物デートした。
「小麦粉は中力粉がいいのか?」
「強力粉でもいけそうな気がする」
「イースト菌を使うかふくらし粉を使うか」
それなのに、夢での出来事が鮮明過ぎて私は現実と夢との違いにあたふたするだけだった。
買い物中も心ここにあらず的な様相だった。
「調子が悪いなら、帰るか?」
「ううん。大丈夫」
巡君からは現実に引き戻すように何度も抱き寄せられたけどね。これが現実、なんだよね。
(夢でもこの光景は・・・ああ、見ていないね)
夢では買い物には来ず、初めては冬休みのクリスマスだった。それが夢で現実と違うのだ。
私はスカート越しのお腹に触れる。
(ここに・・・そうだよね。何度も愛し合ったのに。巡君には悪い事をしたかも)
夢と現実を理解して巡君に寄り添った。
「どうかしたか?」
「ううん。ずっと一緒に居ようね」
それだけが私の言える最大のお詫びだ。
巡君はきょとんとしつつ首を傾げた。
「何を当たり前な事を?」
「当たり前って。まぁそうだけど」
夢は夢、現実は現実だ。
「俺は恵を手放さないよ。恵が嫌と言ったら」
「それはないよ。私も巡君を手放さないから」
「そうか。そうだな」
現実が如何に残酷であろうが私達は乗り越えて行けるだろう。私達の青春はまだ始まったばかりでどれだけ逃げても追いかけてくるしね。
§
買い物デートの後、家に戻って生地を作る。
「意外と難しいものだな」
「プロのようにはいかないよね」
私と巡君はその日の夕食の準備に勤しんだ。
すると巡君の家のチャイムが鳴った。
巡君は手を拭いインターホンで応対した。
そこに居たのは、
『『お祝い持ってきた!』』
美柑と
「お祝い?」
「何のお祝い?」
『恵が結ばれたと聞いて!』
『脱、童貞おめでとう!』
「ああ、先輩から」
「聞いたのね」
私と巡君は引き攣り笑いのまま二人を招きいれた。柑橘コンビは果物の篭を置いて去った。
「ピザに果物ってあり?」
「あり寄りのありかも?」
「レシピ検索してみるか」
「私も手伝うよ」
私と巡君は手探りながら美味しいピザを焼いていった。ピザの出来は上々で、二人で全て平らげたのは言うまでもない。
「とっても、美味しかった」
「これなら次回も作ればいいな」
「うん!」
過去の私達のように一人で出来る事は限られるけど、今の私達二人でならどんな困難も互いに協力しあって乗り越えられるよね、きっと。
了
逃げても追いつく青い春。 白ゐ眠子 @shiroineko_ink
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