第46話 空気を作った努力の結果。
帰宅後の昼食中、
「
「お、おう」
残暑厳しい九月の初め。
この時期は汗を掻かない方が無理な季節だ。
俺も汗を掻いていたため風呂上がりだしな。
なのでいつ汗を掻いていてもおかしくはないのだが、昼食を食べている最中から、恵の顔色が赤くなったり青くなったりと、心配してしまう変化が何度も垣間見えたのだ。
恵は昼食を食べ終えると帰宅して着替えていたTシャツとパンツ姿のまま脱衣所に向かう。
「体調が悪いのか? 腹でも壊したか?」
昼食の残り、洗い物を始める前の皿と茶碗を匂うも異臭はしなかった。夏休みの疲労が今になって出てきたとも思えたが恵はあまり冷たい菓子類を食していないので胃腸の疲れだけは有り得ないと思った。フードファイターかと思う大食女の胃腸が弱いなんて想像出来ないしな。
「風呂上がりは熱い茶でも淹れてやるか」
洗い物を終えた俺は薬缶に水を入れて温め始めた。ポットでもいいが熱い茶なら薬缶がいいだろうからな。
そこで俺は忘れていた恵の特性を思い出す。
「あ、恵は猫舌じゃねーか」
茶を適度に冷ましてから恵に与えようと考えを改めた俺であった。
しばらくすると妙な色香を漂わせた恵がキッチンに顔を出した。
「お風呂、ありがとう」
格好は程よく膨らんだ胸を強調するようなバスタオル一枚の姿であった。これはもしや風呂に入る前に着替えを忘れたって事なのかも?
(いや、流石にパンツは穿いているよな)
髪は乾かしたあとなのか、いつもの団子に纏められていた。団子以外は素肌にバスタオルという、少々反応に困る姿だった。
視線が自然と胸の谷間に吸い寄せられるが、
「お、おう。それと、水分補給はこれを」
視線をそらして冷ましておいた茶を恵のコップに注いでいった。恵は俺の視線が胸の谷間に向かっていた事に気づいていたのか、嬉しそうな笑顔でコップを受け取った。
「ありがとう」
恵は両手でコップを受け取り、そこまで熱くはない茶をちびちびと口に含んでいく。
バスタオル越しに見える恵の身体のラインは数ヶ月前と比較すると少々、妖艶に見える。
大きな尻と細い腰、平面脱却の急成長を遂げた胸がバスタオル下に存在しているのだから。
(おっと、いかんいかん。またジロジロと見てしまった)
俺も嫌な汗を掻いたので身体の熱を逃そうと思いエアコンの効いた自室に向かおうとした。
(この後、賢者になって予習をして夕飯の用意を行わないとな。親父達の帰宅は一日延びたと連絡があったばかりだしな)
薬缶の底を布巾で拭き、コンロに戻す。
俺は脱兎の如く自室に向かおうと、
「飲んだら流し台に置いてくれ。あとで洗うから」
恵から距離を取る。
すると恵が俺を呼び止めた。
「じゅ、巡君」
つんのめった俺は慌てて振り返り、Tシャツの裾に目を向ける。あ、恵が裾を握ったのか。
「どうした?」
「・・・」
恵の両耳がとっても赤い。
モジモジと俯いたままバスタオルの縁に左手を伸ばしている。そのままだとバスタオルの止めが外れるのだが、大丈夫なのだろうか?
(一体何を考えているのやら?)
俺がそう思いつつ恵を見つめると俯いたまま恵が口を開いた。
「巡君、勉強、教えて?」
「勉強? ああ、それだけなのか」
「それだけ?」
「いや、なんでもない」
何故か消沈した俺は頭をガシガシと掻きながら恵の願いを受け入れたのだった。
正直に言えば今の恵の格好から期待していないとは言い切れない。だから「それだけ」の単語が出てしまい自分勝手に消沈したのだろう。
恵は自室に戻りTシャツを羽織って教科書とノート等を持ってくる。外で待っていた俺の隣に移動して共に階段を上がっていく。
(賢者になるのは少し先、だな)
予定していた順番が逆になったが致し方ないだろう。恵が教えて欲しいと言っていたから。
エアコンの効いた自室に入り、恵はベッドの隣に腰をかける。テーブルに教科書とノート等を置き、キョロキョロと室内を見回していた。
昨晩は薄暗い中だったもんな。目覚めの時もボケていたからか、見ていなかったらしい。
「じゃ、勉強すっぞ」
「うん、お願いします」
それは予習を含めての勉強会だ。
今日明日は緩りと勉強する予定だった。
根を詰めすぎても良くないからな。
そんな時間は刻々と過ぎていき、
「それと・・・も教えて」
「はい?」
隣に座る恵の顔が、急に近づいてきたかと思ったら、唇への柔らかな感触が脳に伝わった。
一瞬、何が起きたのか判断出来ないでいた。
恵を見ると長い睫毛と泣きぼくろがはっきり見える距離にある事を知った。キスを教えて?
恵は俺から離れると呼吸を再開した。
「ぷはっ」
「・・・」
妖艶に微笑みを浮かべ舌舐めずりした。
今日の恵さん、妙にエロいんですけど?
「勉強もそうだけど・・・教えて欲しいな」
「はい?」
こうして俺はTシャツを脱いでパンイチになった恵によって一方的に襲われたのだった。
(教えて欲しいって、こちらの方面も含まれていたのかよ。俺も
一方の恵は色々と準備万端だったのが功を奏し痛みなく楽しめたようである。
「恵、マジで肉食系女子だった件」
「肉食系って、そういう意味だったの」
「ああ。だが、尻に敷かれるのは悪くないな」
「そう?」
共にベッドへと横になり時計を眺める。
時刻は夕食を作り始める前だったが、
「今日はピザでも頼むか」
「うん! Lサイズ三枚!」
「そんなに食べるのかよ?」
「カロリーが減ったもん!」
「ああ、そういうことね」
俺の体力が保ちそうにないので一緒に風呂へ入った後、宅配ピザに連絡を入れた俺だった。
「すみません。Lサイズのミックスピザを五枚。ドリンクは・・・」
§
学校の教室で
お陰でキスの後に私は巡君と結ばれたのだ。
(正確に言えば私が巡君を襲ったのだけど)
お風呂上がりの私はリビングのソファに座ったまま身体に残る違和感を味わい続けていた。
頭に思い浮かぶのは先ほどの出来事だった。
昼食後に準備して誘いをかけてみた。
(裸にバスタオルで向かったのに反応してくれないし。いや、おっぱいに視線が向いてたね)
ようやくCカップに成長した私のおっぱい。
(お陰で巡君から何度も揉まれたよね。優しく丁寧に。巡君なりの反撃だったんだろうけど)
育つ時は育つのだと理解した私だった。
勉強を教えてもらいつつ空気を読んで頃合いを計る。巡君の視線が時計に向いたタイミングで身体を強引に近づけて私からキスをした。
その流れでTシャツを脱いで、パンツ一枚になって巡君へと抱きついて何度もキスをした。
思い出すだけで少し恥ずかしくなったけど。
(巡君からはどうあってもやってくれないからね。最中の反撃では何度もキスをされたけど)
ベッドへと横になったあとは巡君に身を委ねた。ぽわんとした意識の中、好きな人に触れられる喜びと、優しい刺激に心が躍った。
一度目は巡君に委ね、二度目は私が座った。
三度目は抱き合って、一緒にお風呂に入って四度目を行った。風呂場の後始末は巡君がピザが届く前に行ったけどね。
(これを知ると定期的に行いたくなるよね)
こればかりは私と巡君次第なので、巡君が望んで私の体調が良い時にだけ行う事になった。
するとピザが届いたのかチャイムが鳴った。
巡君はインターホン越しに配達員に応じる。
『ピザ屋です!』
「「あっ」」
インターホンの画面には見覚えのある顔が映っていた。
「先輩のバイトは配達員だったので?」
「まぁね。家の手伝いは美柑がやってるから」
「そうでしたか」
巡君は副会長こと
私も廊下へと顔を出しお辞儀だけ行った。
「ん?」
「何かありました?」
「ついに・・・良かったわね。恵ちゃん!」
「はい?」
お辞儀した際に副会長から気づかれた。
一体、何処をどう見て気づいたのだろうか?
巡君もきょとんとしている。どうも私達の知らない判別方法があるのだろうね、きっと。
「大事にしなさいよ。それと、避妊は絶対ね」
「わ、分かっていますよ。先輩」
「分かっているならいいわ」
先輩はそう言って玄関から外に出ていった。
きょとん顔の巡君はピザを持って私の元に戻ってきた。
「どうやって判別したんだ?」
「さぁ?」
風呂上がりの私の格好はタンクトップとショートパンツだ。それは巡君が色々と元気になるから、Tシャツとパンツ一枚を止めて欲しいと願われたからだ。私も五度目は腰が痛くて無理なので、巡君の願いを聞き入れただけである。
その後、遅くなった夕食を二人で頂いた。
「「いただきます!」」
久しぶりに食べるピザの風味は絶品だった。
夕食中の会話は他愛のないものだった。
「これなら俺でも焼けそうだな」
「そうなの?」
「材料さえ手に入ればな」
「明日、駅前の業務用スーパーでも行く?」
「業務用スーパーか。行った事ないから行ってみるのもありか?」
「そうなんだ。じゃあ、デートだね!」
「そうか、買い物デートか。それもいいな」
「なら、決定!」
だがこれで明日の予定が決まったも同然なので何時に向かうか話し合った私と巡君だった。
ピザと付け合わせの唐揚げを食べ終えた巡君は片付けを行う。私も見ているだけは悪いのでキッチンで布巾を借りてテーブルを拭いた。
「明日、楽しみだね」
「それまでに恵の腰が治っているといいな」
「治るよ! 何がなんでも治すの!」
「ふふっ。期待せずに待ってるよ」
「そこは期待してよぉ!」
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