第45話 大騒動の後始末は終了か。

 新学期早々、想定通りの出来事が起きた。


「休み明けなのに続ける者って居るんだな」

「うん。これは正直に言ってイヤかな」


 昇降口に入るや否や、上坂かみさか姓が無くなったことがあってか知らないが、下駄箱の上に手紙の山が置かれていたのだ。

 現在のめぐみの姓は上野うえのなので該当する下駄箱には何も入っていないが、それを見上げる恵はげっそりしていた。


「こうなると名字が変わった事が判明した瞬間から収まりそうだな」

「例の案件は終了したのに懲りない男子の多いことがイヤになるよ。これはゴミ箱でいいね」

「いいだろ。再利用出来ないクズしかないし」


 恵は鞄から取り出したナイロン袋を拡げ、鞄を置いた俺から手紙の数々を受け取って、袋に詰めていった。高さ的に俺しか届かないしな。


「これも始業式に伝わる連絡事項で消える可能性も高いがな」

「そうだといいな」


 それは全校生徒へのバイト解禁という生徒達が待ち望んだ会長の選挙公約が施行するのだ。


(それでも極一部のバカだけは続けるだろうから、何らかの対応が必要になるかもな。主催者の退学処分が生徒間だけに明かされるから今のところは結果待ちでしかないが・・・)


 俺と恵はゴミ箱前を経由して教室に向かう。

 その道中、複数の男子が声かけを行おうと俺を強引に壁へとぶつかるよう引っ張った。


「そこの木偶の坊、邪魔だ。退け!」

「うぐっ。痛っ」


 俺を退かすと複数の男子が恵に殺到した。


「「「おはようございます。上坂さん!」」」

「・・・」


 それを見た恵は嫌悪の表情に変わる。

 俺は引っ張った者に対し、襟首を左手で掴んで真後ろに引っこ抜いた。


「これは正当防衛だからな」

「痛っ!?」


 廊下へと尻餅をつくように引っ張って嫌悪する恵の腕を引いて男子の中心から救い出した。


「恵、教室に急ぐぞ」

「うん」


 恵の手を引き教室まで走る。

 背後からは男子達が俺達を追ってくる。


「お、おい、待てよ!」

「俺達の上坂さんを返せ!」

「まだ、上坂さんだって言ってる」

「無関係なのに、いい加減にして欲しいよ」


 俺は恵と教室に入り、追っ手を振り切った。

 そして各々の席に分かれて椅子に座った。

 俺はその際にスマホを取り出して裏サイトに何らかの書き込みがないか調べた。


(いきなりの洗礼だ。これは何かあるはずだ)


 あれから書き込みが消えていれば幸いだが恵への声かけが起きる時点で、何らかの更新があっても不思議ではないと思ったのだ。

 すると案の定だが、


『上坂恵の彼氏をボコろうの会、発足!』


 頭痛のする書き込みが存在していた。


(さて、これは誰が書き込み主なのかね?)


 俺はスクショを撮ったのちスクショを親父に送信した。書き込みの日付を見ると逮捕の前日となっているので誰が書いたかは一目瞭然だ。なので該当の書き込みに対して主が刑事罰を受ける模様と追記しておいた。


(これがどのような反応を示すか楽しみだな)


 一方の恵はというとふみ美柑みかん達と楽しげに会話していた。

 そこにはクラス違いのうたも遊びに来ていて恵の反応を見て楽しんでいるようだ。

 しばらくして、神野こうの先生が教室を訪れ、始業式に向かうよう指示を出した。

 俺は恵と手を繋ぎ体育館へと移動した。

 移動中の俺は先ほどの件を恵に明かす。


「朝の騒ぎだが、どうも退学になった五味ごみがよからぬ策謀を残していたらしい」

「は? 退学したのに?」

「退学前に残して、それを見た男共が大金欲しさに動いているみたいだ。その元手となる大金なんて絶対に手に入らないのにバカだよな?」


 移動中はなるべく大きな声で会話した。

 絶対に手に入らないを聞いた者達は次々に怪訝な視線を俺にぶつけてくる。


「退学に至った事案、刑事罰になるクズ男がどうやって成立者に大金を寄越すんだか?」

「ある意味で不可能じゃない? 同じ留置場に入るなら可能性はあるだろうけど」

「ああ、留置場に入りたい輩が多いもんな」


 俺はそう言いつつ周囲を見回す。

 男子達は総じて首を横に振っていた。


(入りたいからボコろうの会に入ったんだろ)


 何故、そこで首を横に振るのやら?


「今朝もじゅん君に怪我をさせようとした男子も居たけど、彼なんて真っ先に入りそうだよね。五味君の居住地に御案内されたいのかな」

「入りたいのかもな。親父が嬉々として該当人物の聴取を行いそうだわ」

「刑事さんだもんね。巡君のお父さん」


 恵が語った親父の職業を聞いた瞬間、男子達は顔面蒼白で体育館へと駆けていった。

 おそらく俺が正当防衛と言いつつ引っ張った野郎へと伝えに向かったのだろう。


(それでも向かってくるなら相対するがな)


 俺と恵は妃菜ひな先輩達の立つ生徒会の列に並ぶ。そこは先生達の並ぶ場所の隣だ。


「「おはようございます。先輩」」

「おはよう、巡君。恵ちゃん」

「おはよう、下野しもの君と上野うえのさん」


 檸檬れもん副会長が恵の姓を口にすると一年の列でザワザワとした騒ぎが起きる。


「早速、反応が出たね。巡君」

「だな。会長の義妹になったとか言ってる」

「流石にもう、私の義妹にはならないわね」

「ならないというより、なれないでしょ?」


 上野とはどういう事だと言いたげだな。

 会長と何らかの関係があるのか、とも。

 始業式が始まり、校長先生の長ったらしい挨拶が終わると、生徒会からの連絡事項が入る。


「おはようございます。本日より私が掲げていた、アルバイトの自由化が施行されます・・・」


 会長が壇上に立ち、選挙公約通りではないにせよ自由化が叶った事をアピールした。

 そして注意事項として自由化の適用外となる者の例も挙げていく。

 それを聞いた生徒達は黙って耳を傾ける。


「最後に・・・誰とは言いませんが、学業そっちのけで愛が存在しない手紙を出す者達も対象となりました。本気の恋なら先生方も応援して下さるようですが一方的に相手を困らせる者は」


 何をするために学校へと訪れているのか?

 先生方も疑問視していると会長は語った。

 生徒会の列に残る副会長と俺達も、


「学業よりも色恋を優先していればね」

「奴等の場合は色恋よりも金銭でしょうけど」

「あら? まだあの件が燻っているの?」

「ええ、似たような書き込みを発見しました」

「そ、それは災難ね?」

「「災難ですね」」


 小声で語り合った。

 一方、会長の注意事項を聞いた男子達は阿鼻叫喚となったがな。


「本日は仕方有りませんが明後日から下駄箱に収める姿を目撃した場合、該当する生徒は生徒指導室に呼び出されますので注意して下さい」


 会長はそう話を締めて壇上から降りてきた。

 始業式は無事に終了し一年から順に教室へ戻っていく。俺達は生徒会なので最後だけどな。


「さて、明後日から忙しくなるわよ。体育祭までひと月だからね」


 そうだった。体育祭の準備も大詰めだった。


「そうね。でも明日が日曜日で良かったわね」

「そうですね。今日明日と英気を養わないと」

「明後日からが修羅場ですもんね」

「「考えたくなーい」」


 そう、修羅場なのだ。

 会長と副会長が耳栓しているが修羅場だ。

 明後日からは部長会議と体育祭実行委員の会議が続けて行われる。そこへ誰が何に出るかとか例の件の返答も貰わないといけない。


「巡君が提案したアレも週明けに分かるわよ」

「無事に叶えばいいですがね」

「お堅い先生方も柔軟になったし」

「大丈夫だと思うわよ。多分」

「「多分って」」


 体育祭が終わると文化祭があって期末考査の間に生徒総会が入って生徒会選挙も行われる。

 二学期は行事が盛り沢山だから本当の意味で修羅場が待ち構えているな。その中で学業と交際、バイトを掛け持ちして大変だな、マジで。


(でも、中学時代とは違って日々が楽しいと思える気がする。灰色だった視界が鮮やかになった的な? これも恵と交際しだしたからかね)


 そう思えるほど日々の生活は大変でも学校生活が楽しくなってきている俺だった。

 三年生が体育館から教室に戻ると俺達も先生達と共に体育館を後にする。


「残りは課題を提出して」

「家に帰って緩りと過ごすと」


 教室に戻るまでの間、恵への声かけは発生しなかった。課題を提出して教室から出る時も発生しなかったので、俺が書いた例の書き込みが功を奏したようである。

 それと五味退学の件は下校中に耳にした。


「五味の退学ってマジか」

「なんで退学してんだよ」

「俺も詳細は知らないが警察に連れて行かれたのは本当らしいぞ」

「それ、誰情報だよ?」

「部活の先輩からの情報だよ。信号待ちの覆面に俯いた五味が座っている姿を見たってよ」

「それ、本当に覆面か?」

「覆面だって。天井に蓋があったらしいし」

「「あー」」


 その当時を知る者から聞いていた者も居たようだ。誰からとか覆面とか言ってる者は俺が引っ張った野郎だったけどな。奴は信じられない様子だったが、それが真実である。


「まだ信じていないみたいだね」

「頭の中が、お花畑なんだろ?」

「ニュースになるような事案ではないから」

「知らない者が多くても不思議ではないが」

「でも、三年の先輩達は別みたいだけどね」

「そこは本性を知っているかどうかだろうな」


 実際に居なくなって、三年女子も平穏な生活に戻っているからな。例の先輩は女子達の弱味を握って脅していたらしい。それもあって脅された三年女子達は渋々と応じていたようだ。

 何はともあれ、五味が発端となった恵の困惑告白騒動はこれにて終了となったようである。




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