第44話 思惑と現実とのギャップ。
誕生日は
(なんか風呂に行く前の恵の様子が少しおかしかったな? 一体、何を思っているのやら?)
先に風呂へと入っている恵を静かに待った。
俺が恵と交代して風呂に入るまでの時間はやたらと長く感じられた。明日から始まる新学期の予習などは昼間に終わらせたので、今は手持ち無沙汰感だけが途轍もない事になっていた。
(遅いなぁ。まぁ女子の風呂は長いと聞くし、仕方ないと言えば仕方ないが・・・湯あたりしてないだろうな?)
俺は恵を心配しつつリビングにてソワソワした。
すると、
「お先、失礼しました」
ようやく恵が出てきた。
格好はいつものTシャツとパンツというラフな格好だった。恵は冷蔵庫に向かって行きフルーツ牛乳を自分のコップへと注いでいた。
「それじゃあ、風呂行ってくる」
「うん」
俺は交代するように脱衣所へと向かう。
脱衣所には恵が本日来ていたワンピースが篭に収まっていた。
高級そうな見た目なので、風呂に入る前に洗濯ネットへ入れ、おしゃれ着洗いを選択した。
(こういう服は縮んだりしたら大事だしな)
残りはそれの洗濯が終わり次第洗う予定だ。
風呂場へと入り頭を洗って身体も洗う。
湯船に浸かり明日に向けての英気を養った。
風呂上がりは洗濯機の様子を眺めつつ、トランクスと短パンを穿き、白いTシャツを着た。
髪を乾かしたあとリビングに向かった。
キッチンで水分補給を済ませてリビングの様子を眺める。
そこでは恵がソファへと横になっていた。
(ああ、湯冷めすると明日に堪えるし、タオルケットでも掛けてやるか?)
俺は脱衣所に戻ってチェストからタオルケットを取り出してくる。リビングに戻って恵の身体へと静かに掛けてやった。
(何気に色々あった一日だ。疲れが出たのかもな・・・きっと)
俺は従来通りの誕生日だったので、そこまで疲れてはいないが、恵は父方の実家へと伺った気苦労もあったからか少々バテているように見えた。
(膝枕でもしてやるか)
俺は横になる恵の隣に座り、寝苦しそうな恵の頭を持ち上げて膝へと載せる。
「んっ」
「ホント、可愛い寝顔だよな・・・おっと。あまり見てやるのは悪いか」
恵は身じろぎしたのちタオルケットに気づいたのか顔を覆い隠した。
(聞こえてた? いや、まさか、な?)
俺は付けっぱなしだったテレビのボリュームを落とし、部屋から持ってきていた単語帳を開いて中身を覚えていく。
しばらくすると恵が、
「むにゅ?」
不可解な単語を発しタオルケットを顔の上から外し俺と目が合った。
「え、えっと?」
「お疲れさま」
「こ、これは?」
「膝枕してやった」
「そ、そう」
恵は戸惑いをみせつつ身体の向きを変えた。
俺の方に顔を向け、嬉しそうに目を瞑った。
(何処かしらで疲れが出ているのかもな?)
すると恵の寝息が聞こえだした。
頬をツンツンしたくなったが我慢した。
(重量はそうでもないが、男なら我慢するしかないな。耐えられなくなったら連れて行くか)
今はこのひとときを楽しむのも手なのでしばらくの間は膝枕を継続した俺だった。
足が耐えられなくなった頃合いに、恵の頭を浮かせてソファから立ち上がる。タオルケットのまま首と膝の裏に両手を入れて抱き上げた。
(このまま部屋に連れて行って寝かせるか)
客間こと恵の部屋に入り、少々行儀は悪いが片足だけで掛け布団を動かす。そこへ恵を静かに降ろして、タオルケットを取っ払った。
その際に驚くべき下着が目に入った。
(おいおい。なんて下着を穿いているんだよ)
それは
俺は掛け布団を恵に掛けるとタオルケットを持って客間の灯りを消して静かに出ていった。
リビングに移動して戸締まりを行う。
リビングと玄関の部屋の灯りを消したのち脱衣所へと向かった。
タオルケットは洗濯物と一緒に洗った。
それらの洗濯を全て済ませて自室に戻った。
「明日も早いし。寝るか」
俺はベッドへと横になり部屋の灯りを消す。
少し早いが寝てしまった方がいいだろう。
そんな中、俺の部屋の扉を叩く音がする。
『
寝ていたはずの恵が何故か起きてきていた。
俺は寝る前だったがベッドから起き上がり扉を静かに開いた。そこに居た恵は何故か顔が真っ赤で、俺はどうしたものかと首を傾げた。
「どうした? 調子が悪いのか?」
「ううん。それは大丈夫なんだけど」
「けど?」
「今日は、その、い、一緒に寝ていいかな?」
それを聞いた俺は戸惑ってしまった。
(えっと、この言葉の意味は、寂しくて寝られないって事なのかもな、きっと)
深読みするとそっちの話かと思ったが本日だけで様々な事があった上に新学期を考えると寝られないのだと判断した。
新学期からの野郎共の動きがどう変化するか気がかりだからな。首謀者が片付いたとはいえ暴走する野郎共が後を絶たない可能性もある。
「いいぞ。一緒に寝ても」
「うん。ありがとう、巡君」
恵は初めて入るからか薄暗い俺の部屋をキョロキョロと見てまわる。
「どうした? ベッド使っていいぞ」
「う、うん」
俺は
「あれ? 一緒に寝ないの?」
「一緒に寝るだろ?」
「同じベッドで寝ないの?」
「・・・」
ああ、人肌が恋しいのか。
ここは彼女の願い通りにした方がいいと判断した俺は布団を片付け、掛け布団を動かした。
「それじゃあ、恵は奥で」
「えっと。お邪魔します」
「俺は手前で寝るから」
「うん」
部屋の灯りを消した俺は瞼を閉じて羊を数える。すると寝入ったであろう恵が身じろぎして俺の腕に抱きついてきた。
「ん・・・」
「・・・」
ノーブラの胸が腕に押し付けられる。
(恵さん、胸が育ってきてませんか?)
両脚が俺の脚に絡んでくる。
(このまま寝技にならない事を切に願う)
右手に薄い生地が触れたのを感じた。
それは恵の穿いているパンツだと理解した。
Tシャツが捲れて当たってしまったようである。俺は素数を数えて感覚から意識をそらす。
耐える時間は数時間にも及び、気づけば耐えられなくなって意識が自然と落ちたのだった。
翌朝、目覚めると隣に眠る恵の体勢が寝入った時と同じ体勢だったのは言うまでもない。
「恵、起きろ。朝だぞ?」
「うにゅ。んっ」
「エロい声出してまぁ」
「んっ」
一体、どんな夢を見ているのやら?
「巡君。赤ちゃん、作ろ」
いや、本当にどんな夢を見ているのか?
(どう反応していいのやら? プレゼントの事もあるし、いつかはそんな関係もあるかもな)
結果的に同衾こそしたが、それ以上になる事は無かった。恵が望んでいるとしても、どう働きかければ良いかきっかけが分からないしな。
(それにキスすらしていないし。いつかは)
キスとそれ以上の関係に繋げたいとは思っている。今はその時期ではないだけでな。
俺は恵の名を引き続き呼び続け、目覚めた恵の赤い顔を眺めつつ優しく微笑んだのだった。
「お、おはよう」
「おはようさん。いい感触でした」
「あ、うん。お粗末様でした」
「頭、働いてないか?」
「多分」
その日は朝から順番に風呂へと入り、制服に着替えた。朝食だけを作って二人で食べた。
昼食は帰ってから食べるので弁当は作っていないがな。今日は新学期の始めで昼までだ。
生徒会も本日は休み。バイトも休みである。
「今日こそはリベンジ!」
「何言ってるんだ? 恵」
「なんでもないよ!」
「そうか?」
恵は謎の意気込みをみせているが、今晩あたり気に掛けておく方がいいだろうな、きっと。
例のプレゼントも財布に常備しておこう。
(使わないに越した事はなし。だしな)
§
巡君と結ばれたいがため、色々考えて行動したのだけど、恥ずかしさと勇気の無さが災いして、疲れが出てしまい寝てしまっていた。
ソファでは寝入り、気づけば部屋だし。
それではダメだと思い、巡君の部屋に伺い、
(や、やっぱり無理ぃ!)
同じベッドへと横になるも勇気が持てず気絶するように眠ってしまった私だった。
翌朝、目覚めると巡君の右手を私の股座に収めていた事だけが無性に恥ずかしくなった。
そこでつい、
「お、おはよう」
「おはようさん。いい感触でした」
「あ、うん。お粗末様でした」
「頭、働いてないか?」
「多分」
お礼を言われ、苦笑しつつ返答したのは私自身も理解していなかったからだと思う。
頭が働いていない。まさしくそれだね。
とはいえ昨日の今日で私が行う事は同じだ。
昨日は色々あり過ぎて出来なかった。
だからこそ今日は成功させたいと願っても不思議ではないよね。
「今日こそはリベンジ!」
「何言ってるんだ? 恵」
「なんでもないよ!」
「そうか?」
巡君は気づいているようで鈍感だから私からリードしないと! 昨晩は出来なかったけど。
(今日こそはキスをして。そのまま・・・)
眠ることなく結ばれたいと願う私だった。
フラグになったらなったで折ってでもやり遂げるよ。今日の私はいつもと違うのだから!
(睡眠時の方が積極的なのは私も驚いたけど)
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