第6話 4回目。
「お前は本当に天才だな」
クロウの案により、新たに出会ったジェイドには2つの案を提示した。
もし王子になれば好きな事をするのは勿論、好きな相手との結婚は非常に難しくなる。
だからこそ、クロウの弟になるか、王子になるかを選べと。
《いえ、流石に他よりも生きての事ですから》
「そうなると私はどうなる、相変わらず阿保なまま、貴族になどとは考えもしなかったぞ」
《王族を間近に見てらっしゃるからこそ、かと。どう足掻いても、きっと、王子の道は難しいでしょうから》
確かに、王子の立場は色々と難しい。
如何に利用されない様に教育し、守ったとしても。
私達が知らない脅威がこの先にどれだけ有るか、例え幾ら想定していたとしても、奸計を完全に防ぐ事は難しい。
私が処刑された時ですらも、そう守っての事だったのだから。
「だが、コレでジェイドが王子の道を選ぶなら」
《どうでしょうね、情愛は奥が深い、そうですし》
「あぁ、だな」
《少し様子を見てきますね》
「あぁ、頼んだ」
頼んだ、とは言いながらも、グレースは僕とジェイド様の様子を伺っている。
ただ信頼が無いワケでは無く、純粋にジェイド様を心配しての事。
弟であり夫、その気持ちも残ったままなんですよね。
《どうですか》
『あの、やっぱり僕は良く知らないし分からないんで、選ぶのは』
《グレースと結婚出来なくなるかも知れません、それか出来ても子を自分達では育てられない、か。そうした事が問題にならないか、平気かどうか、ですね》
『綺麗な人だな、とは思いますけど』
《なら、前世も含めて思い出してから、考えてみましょうか》
『前世?』
《少し嫌な事を思い出す事にはなりますが、アナタとグレースの為なんです、少し我慢して下さい》
「すまん、少し見苦しいかも知れんが、我慢してくれ」
どの手段で思い出して頂くか。
最も無難なのはグレースの裸では、と。
そうする事で、前回は裸を見て前世を思い出したのかどうか、その検証にもなりますからね。
『クロウは、やっぱり僕の敵ですよね』
《あぁ、思い出して頂けたんですね》
前回も、僕はグレースの裸を見て前世を思い出し、そして自死した。
「では、何故自死したのか教えて下さい」
『あぁ、グレースも、なんですね』
《ついさっきですけどね》
「だな、それで案はクロウだ。で、理由を聞かせて欲しい」
『前回は申し訳無くて死にました、何も知らないだろうグレースが僕を受け入れるだなんて、許されないと思い、発作的に自刃してしまったんです』
「なら、最初、私を処刑したのは、計略に乗ってしまっての事ですかね」
『だとしても、あまりにも王子としての自覚や覚悟が足りなかった、だからこそ2人の考えは正しいと』
《いえ、今回は2人を本気でくっ付ける気で提案したんです、王子となっては色々と枷が出来てしまいますから》
『本当に譲る気ですか?』
《いえ、今から奪っても良いですよ、今からでも近衛の職を退きグレースと結婚はしたいです。ですけど、フェアじゃないですよね、僕だけが記憶を持ってるなんて》
「死なれるとは思って無かったらしい、お陰で魔が差したと言って私を襲おうとする位に動揺していたしな」
『は?』
《魔が差したんです、喪服の弱った姿を見たらアナタもグッと来ると思いますよ》
「成程、喪服はそそるのか」
《まぁ、弱った姿と言うのはそそりますよ、特に強いと思ってる人の弱った姿は抑えが効かなくなりますし》
『言い訳はそれだけですか?』
《金的を食らいましたし、前にアナタに殴られた事も加味して、コレで手打ちとして下さい》
確かに、僕は殴られる前に。
『あ、前は、どうして殺したんですか?』
《やり直す為ですよ、アナタに思い出させてしまい、諦めさせてしまった。それはグレースも同じ、生きる事を諦めさせてしまったので、やり直したんです》
「お前達の事は平気だったんだが、侍女がな、ソチラ側に居た事で心が折れたんだ。家族にさえも疎まれていたのか、と」
《僕が脅して立ち会わせたんです、心を折らせたる為に。その頃から気になっていたのに、情愛だと自覚が無かったので》
『あぁ、分かります、僕もそうでしたから』
「私が鈍感なのは勿論なんだが、お前達も相当だと思うそ」
《ですね》
『すみません』
「でだ、どうする」
『グレースの望む通りに』
「なら私に望みが無いとなったら、どうする気だ」
『それは』
「何が望みか、先ずは聞きたい」
出来るなら、愛して欲しい。
でも、あんなにも身勝手で、自分勝手で恩を仇で返す様な僕を。
《先ずは、気にしているかどうか、許しているかどうかを》
「あぁ、気にしていないし、許すもなにもあんな侍女や侍従に囲まれていたんだ、仕方無い。私は気にしない、だからジェイドも気にするな」
《それが無理なんですよ、アナタの様に物分かりが良い方は稀有なんですから》
「お前もだが、複雑に考え過ぎだろう。結局はどうしたいか、先ずは己を心を見極めてこそ、だろうに」
『好きです、愛して欲しいです、けど』
「そんなに気にして欲しいのか?」
『僕が殺したも同義なんですよ?』
「謀られての事だろう。それこそ、そんな事が無かった時にも、私が憎かったのか?」
『いえ』
《別に今回こそ遠慮して下さって構いませんよ、今度こそ僕が貰いますから》
「私に選ぶ権利は無いのか」
《あぁ、女騎士団の設立は協力しますよ、その報酬って事でも構いませんが》
『そ、あ、だと僕は、やっぱり王子の方が』
「待って下さい、私と結婚したからと言って、必ずしも幸せになるとは」
『なります、前は凄く幸せで、だからこそ、落差で』
《分かりますよ、僕も動揺して早々に殺してしまった部分も大きいですから》
「お前でも動揺するんだな」
《前世の恥を濯ぎたかったんですよ、幼稚で愚かな行いを、出来る事なら消し去りたかった》
『それで、どうして2人は亡くなったんでしょうか』
《結婚して幸せに老衰を迎えた、と言ったらどうしますか?》
「クロウ」
《迷う位なら止めたら良いんですよ、どう生きるにしても苦労は有るんですから》
「まぁ、そうだが」
『もう少し、話し合いたいんですが』
「すまん、空腹だったな。林檎にするか?それとも飴にするか?」
『リンゴでお願いします』
十何年、庶民どころか貧民として育ってしまったからこそ。
息子は王子になる事を拒み、代案として、近衛兵のクロウの弟にと。
『賢い子に育ってくれて嬉しいわ、本当に』
《ぁあ、そうだな》
『元は生きてくれていたら、出来るなら幸せで居て欲しい、そう思っていた。それに、一生会えないかも知れない、話す事も無理かも知れない、と。なのに会えたわ、しかも話せた、そしてコレからも会えて話せるのよ、王子の荷まで負わせるだなんて、あまりに欲張り過ぎだわ』
《あぁ、そうだな》
《ですが血縁者を市井に出すワケにはいきませんので、断種か、お子様の婚約かすり替えか、どちらかを強いる事になります》
《ジェイドを断種させるか、産まれた子を王族の婚約者とするか、兄や姉の子として育てさせるか》
《はい、まだ見ぬお子様のお気持ちを強制させる事になるかも知れませんが、何かしら有った場合、子孫が途絶える事は防げます》
『また間違いが起こらないと』
《僕もグレイも、それからアッシュ様にマリー様、ジェイド様が居ます》
《あぁ、あの時は近衛の力が削がれ、グレイの家だけが頼りだったんだが。そうか、そうだな》
《それに新しい案も幾つか御座いますので、先ずはご一考して頂きたく》
『厳しく見させて貰うわよ、もう2度と、失いたくないの』
《はい》
クロウの案は実に革新的だった。
近衛兵は王の直轄、であるなら王妃の直轄、女騎士団の設立。
それに伴い試験運用も兼ね、地方視察団の設立も、と。
《グレイの案か》
《そう言いたい所ですが、僕とグレイの半々です。女騎士の使いどころは色々と有るので、グレイだけではグレースが忙し過ぎ、愛を育む為の時間が持てませんので》
『あら、それはアナタだけ、の事かしら』
《すみませんが奪い合いをさせて頂きます、正々堂々、グレースを奪い合います》
《ならば王子に、いや、そうか、そこも理解してくれての事か》
《なんせ一目惚れをしてしまったそうなので、はい》
『まぁ、素敵、分かるわ、グレースは美しいもの』
こう女にも評判が良いからこそ、時に諍いの原因になる事も有ったのだが。
見慣れさせる為にも、女騎士団は設立すべきかも知れないな、それこそ地方視察団も確かに必要だが。
《忙しくなるぞ》
《はい、補佐もお願いしますので、同行の許可をお願い致します》
私が、私達がしっかりとした王制を築けなかったからこそ、末の王子を手元には置けぬ。
そう思い、もう暫く頑張ってみるしか無い、か。
いや、その為の道標なのかも知れんな、ウチの息子は。
《分かった、頼むぞクロウ》
《はい》
何とかなるもんだな。
以前の記憶が有って助かった、使節団で各地方を回り、勧誘し女騎士団が早々に設立可能となった。
そして私は女騎士団長を経て、婚期を理由に直ぐに退団し、使節団の臨時護衛に。
一方のクロウは。
『使節団長って、それで元女騎士団長と結婚は』
《直ぐに、ではありませんし、結婚となれば僕も退団します。それに、そこまで規制していては誰も結婚出来ませんから》
「まぁ、そうだな」
《何にでも抜け道は有る、と言うか無い方が逆に難しい事になるんですよ、地下に潜り込まれては面倒ですし》
「全くだ、敢えて逃げ場と思わせつつ、実は罠。その方が探るにしても捕らえるにしても、楽だしな」
『だとしても、少しは譲ろうとは思わないんですか?』
《譲ったじゃないですか、前回、自死なんてしなければ良かったんですよ》
『それはそうですけど、僕を殺した分は忘れてませんからね?』
《そのお陰で結婚は出来たじゃないですか》
『そうですけど』
「仲が良いなお前達は」
《まぁ、ある意味で同志、気持ちが分かってしまう者同士、ですからね》
『悔しいし残念ですけど、そうですね』
「君達がくっ付けば話が早いと思うんだが」
『絶対に無いですね、有り得ません』
《それとコレとはワケが違いますから、万が一にも無いですね》
「そうなのか、難しいな情愛は」
《アナタのは特に、ですね》
『ですよね、ベタベタに愛される想像が全く出来ませんし』
《ぁあ、アッシュ様とマリー様が良い見本になるかと、アッシュ様も冷血冷徹な近衛兵と言われていたんですが。まぁ、今はベタベタですし》
『どうしてそうなったのか聞いてますか?』
「欲に、肉欲に負けたらしい」
《あぁ、成程。そう言えばジェイド様って、全ての前世で童貞でしたよね》
『ですね、手垢まみれのクロウとは違って、僕もグレースも清いままですから』
「果たして本当にそうだろうか」
『《えっ》』
「冗談だ、だがあまり仲違いするなら、私は第三の選択肢を作り出しても良いんだからな」
《善処します》
『考えておきます』
兄上を劇的に変化させた夜の営み、私も前世で期待していたんだが、死なれてしまったしな。
相性が存在するらしいが、本当かどうか、義姉に少し訪ねてみるか。
《おめでとうございます。ですけど、いつでも奪えるんですからね、油断しないで下さいよ》
『はい』
僕はクロウに競り勝った。
けど、それはあくまでも今世でのみ。
もし、万が一にもグレースが死の際でやり直したいと思ったなら、きっとまた人生をやり直す事になる。
しかも、僕がやり直したいと思っていいなかったら、次こそ僕は譲る事になってしまうだろう。
そうしない為には、やり直したいと後悔しない、させない人生を歩むしか無い。
いや、やり直しが無くても、本来ならそう思って生きるべきで。
けれど情愛は深く難しい、自覚し理解するには、複雑な状況では特に難しい事で。
今でも、常に正解を考え続けている。
「よし、殴ってはいないな」
《来世に取っといてるので殴りませんよ》
「そう来世が有ると思うなよ、今こそ、こうして生きているのだから」
《はい》
『クロウも結婚してくれたら安心なんですけどね』
「いや無理して失敗するよりは良いだろう、そう慮る風潮も僅かだが出て来たんだしな」
『絶対に裏で操作してますよね』
《どうでしょうね》
「まぁ、結婚だけが全てじゃないんだ、お前はお前で幸せになってくれクロウ」
《考えておきますね》
グレースは所謂仕事人間、真面目だからこそ線引が厳しい。
コレだけ仕事仲間として何回もの人生を歩み続けているクロウは、仕事仲間として認識されている。
片や僕は庇護される側からも抜け出せた、そして殺した者としての呪縛も、寧ろ最初から無かったに等しい状態となった。
もしかしたら、性別が逆だったら難しかったのかも知れない。
元、とは言えど年下の警護対象に男の騎士が手を出すだなんて、他の騎士まで誤解されかねない。
男より女の方が弱い、そうした世間の考えは当たり前で、グレースと僕ですらも当て嵌められる対象だった。
だからこそ、その評判を逆手に取り、僕の方から手を出した。
本当はグレースの方が遥かに強いんだけど、口説きに口説いてお酒と媚薬を使い、僕かクロウどちらに抱かれるかを迫った。
そしてグレースが一線を越えても良いと言ったのは、僕。
この世には媚薬なんて無いんだけど、ウブなグレースはすっかり信じ込み、僕に抱かれた。
凄く凄く可愛かった、念願が叶って、嬉しくてどうにかなりそうだった。
そして順番が逆になったけど、婚約して、結婚した。
だから世論は混乱してる、僕から手を出したのか、元女騎士団長が先に手を出したのか。
今でも論争のネタになる、必ず何処かの酒場で、どちらが先に手を出したのかと。
クロウすら勝てないのに、僕に勝てるワケが無いのだけれど。
夢が有る議論中だからこそ、いつまでも絶える事が無いらしい。
「はぁ、また、か」
『本当の事を言いに行く?』
「いや、何故か言っても信じないんだよ、特に男は」
『男って、そうした生き物らしいね』
「情愛もだが、分からん事が多いな、この世は」
『そうだね』
僕はグレースの愛を疑った事は無い、真面目なのも有るけれど、嘘や誤魔化しは面倒だと思って避けていると言ったから。
それを、それも信じてるし。
「部屋に戻るか」
『うん、愛してる』
色々と信じられる部分が有るから。
うん、疑う余地は皆無なんだよね、全てにおいて。
「今日はダメだけど、うん、愛してる」
何転ⅡーB面ー 中谷 獏天 @2384645
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