是非、二回以上読んでほしい。些細な表現の裏に隠れた真意の深さが面白い!

 全体で10万文字とほどよく読める作品ですが、構成と表現に無駄がない、きれいにまとまった作品です。個々人の特徴をとらえたセリフ回しや細かな仕草の描写がそれぞれの登場人物との関係や世界観を上手く引き出してくれています。

 よくある「王太子妃はイヤなので、獣の国でがんばります!」や「私を攫ったネコが王国から追放されていた件」みたいなタイトルが付けられる、テンプレな異世界系の話かと言われると、少し難しい作品です。

 それくらい、実はよーーーーーーーく色々と考えられている作品ですよ!!

 だからこのレビューを呼んだ人はぜひ二回は読んで!! お願いします!!

 まず情景描写が良い!
 主人公が大きく踏み出すシーンが全て主人公が魔法を使える「青白い月が綺麗な夜」です。それが獣人のネコのいる『夜』の世界と関わりを深めようとすることを暗示しているようにも読み取れるのが味がある。一話のシーンと最終話のシーン、そしてこの物語がはじまった『本当の最初』のシーン、すべてが月の美しい情景に繋がっています。

 キャラクターも世界観に合わせて、全員が魅力的すぎる!
 主人公は世間知らずの物静かなお嬢様だけど、目線や手の動き、物怖じしない短い言動と些細な一挙手一投足のなかに、自分を変えようとする心の芯の強さが出ていて、とても印象的です。

 傷を負った元王子も、その側近たちも皆それぞれがキャラが立っていて、最後の最後までそれぞれに役割があるのも無駄がない。つまり、ポッと出の見栄えがいいだけのキャラが誰一人いないです。全員ができることをできる限りやっているのが目に見えるし、それを上手く物語の中に落とし込んでいて、よーく話の構成を考えられています。

 中でも一番、魅力的に作り上げているなぁと感じたキャラクターは敵である「鳥野郎」君です。

 タイトルである「白き魔女と黒の忌み王子」とある通り、この作品の根幹にあるのは『ふたつの対比』です。白き魔女は主人公として、黒の忌み王子は読み進めていけば意味が変わっていきます。その変化の緩急もまた、とても………………すごい(語彙)。

 主人公と敵は同じ境遇であり、同じく社会の不条理の渦に飲み込まれた存在で、どちらも誰かに救われたことがあるのに、片方の手は白く、片方は黒くなってしまったことが本当に良い意味で悲しい。

 そこを「鳥野郎」君がさらに奥深くしてくれていると、私は思いました。


 それを実感するためにも、ぜひぜひぜひぜひ二回読んでください!!!
 二回目で「あぁ、こういう意味だったんだ」とわかることが物語を通して想像以上に多いです!

 特に私が驚いたのは、主人公と敵が出会った時に『目を瞠った』シーンですね。二回読んで「うーわ、ここからお前はわかっていたのかよ」と痛烈な感情に襲われました。

 長くなりましたが、えー、バリバリ面白いです。
 少なくとも10万文字、読了時間2時間弱は手が止まらないことを約束します。

 そして、今までのゆるーい『異世界なろう系』に読み慣れている人にこそ、じっくりとキャラクターの魅力をかみしめながら読んでほしい作品でございます。