【最終話】「感動の『ラスト』」

 結子との諍いの現場から、少年は走って彼の家に帰った。短くはないはずの陽はとうに落ち、夜道と言って差し支えない暗闇を、少年は走り切った。

 少年は台所に立つ母親に夕飯をまだ食べていないことを伝えてから、階段を駆け上って妹の部屋の前に立つ。

 「ちょっといい? 話したい事があるんだけど」

 「いいよ」

 部屋の主に快諾されたため、躊躇なく戸を開ける。すると、妹――界都は少年とお揃いの回転イスに乗って、スイーっと転がってきた。

 「そんで、話たいことって?」

 「あのな……兄ちゃんな、彼女できた」

 少年がそう言うなり、妹は文字通り体を回して笑った。しばらくして、ヒィーなんて言いながら、ようやくマトモな言語を発した。

 「いやー、今世紀最大のジョークだね ぷぐっ い、いい出来栄えだよ そうだ、今度連れてきてよ できればスマホの中から引っ張り出して」

 「いやその、めっちゃウケたんで勿体無いけど、ホントなんだよ 今日行った遊園地で、告白して、OKもらえた 知ってるだろ、僕とおんなじクラスの、雪白七子ちゃん」

 「いや、は? まじ? ねえ、マジなのそれ? 嘘でしょ? 個人名出すあたり、危機管理能力が足りないぜ、お兄ちゃんさんよお 私もおんなじ学校通ってんのにさあ」

 相当に信じ難いのか、口調からは嘲笑にも似た色合いが感じ取れる。

 「いやマジなんな、それが ほい、証拠」

 そう言って、我ながらアレなツーショットを妹に見せてやる。ねえ、これなんの拷問なの? しかし、同じような感想を、目の前の能天気も思ったのか、顔が朱、どころか酒に染まったのかと思わせるほど赤らんでいる。

 「それで、どっか、その、いいデートスポットみたいなのってないかなーってきたんだが、頼める?」

 妹は顔を覆ったまま、左手で親指を立てるサインをする。なんじゃそりゃ。

 「じゃあまた今度、良さげなところみっかったら教えてくれ じゃあな」

 うずくまって動かない妹に、もうこれ以上何もしないでおこうと思い少年は立つ。

 その時、少年は何か思い出したように妹に言った。

 「そういや、夜道には気を付けろよ 今日もよくわからん酒呑みに絡まれて、大変だったから」

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UNNAMED【カクヨム短編コン仕様】 筆名 @LessonFine

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