【第九話】「」
「界くん」
「はい?」
七子ちゃんの家から出てきた彼に、七子ちゃんの家の前なのに叫んでいた。彼は、動揺している風だった。
途端、疑惑が確信に変わった。もう、一縷の希望に縋ることしかできなかった。
「界くんは、七子ちゃんと、どっ、どういうっ」
「……」
「だ、だって……君が、私を――」
「あのー、どちら様ですか?」
その言葉。その言葉を聞いて、無尽蔵に怒りが湧いた。やはり彼はそういう奴なのだ。
「この期に及んでしらばっくれる気? 七子ちゃんと二人っきりで手まで繋いで帰っておいて? 七子ちゃんの家に上がり込んで、たっぷり30分も居座っておいて? コレが交際している二人じゃなくて、なんだって言うの?」
私が捲し立てるのを、彼は黙って聞いていた。
「第一、今日は二人で遊園地デートなんて話じゃなかったよね? みんなで遊ぶ予定だったんだよね? なのに、なんで二人の会話の中に、他の誰も出てこないのよ‼ 私も、行きた、かったのに――」
彼は、私が言葉を紡ごうとしている糸車を、ズタボロに破壊した。
「なんで、その、えっと僕と、その…七子が付き合ってるって知ってるんですか? あと、すいません、その、急いでいるので、訳のわからないいざこざは、よそでやってもらえますか?」
それだけ言って、彼は走り去った。無論、彼の家へ、だろう。
ああ、確かに。
私は、スッと、その場に座り込んだ。足と一緒に、何かが、ストンと落ちた音がした。今更だが、私の言っていることは程度の低い八つ当たりでしか無い。自身を認めろと、そう喚いたに過ぎない。確信したことが、翻ることなんてめったに無い。
――でも。
そうしてでも、彼に、界くんに否定してほしかった。
違うよと。そうじゃないよと。いつもの温かい声音でそう言って欲しかった。
私を好きだと言って、抱きしめて欲しかった。
生涯を誓ってキスを、して欲しかった。
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