【第八話】「ヒーローショー見る? 見るよね?」
結論を言えば、そんなことはなかった。ただ七子が少年に感謝を伝え、「どういたしまして」で返すだけの他愛ないやりとりを交わしながら、二人は遊園地へと入っていった。
◇◆◇◆◇
そんな二人を眺めながら、後ろの噴水のベンチに座っていた少女――鴻 千綿――は、ゆっくりと動き出す。
((よし、とりあえず第一段階はクリアかな? しっかし…なんで七子はよくわからん輩とかに目つけられなかったんかな? そこは女の子が一人になったんだから、ちゃんとチンピラとかに襲わせて男の子に守ってもらんなきゃ! そんでもって、少年に謝って逆に「七子は可愛いからこういうことも考えとくべきだった」とか言わせる! ああ、テンプレートのいと尊きよ…))
◇◆◇◆◇
鴻 千綿――彼女は生粋の「恋愛ROM専」であった。どこぞのすれ違いカップル×3(だと作者は思っている。いさなちゃんは負けていない! 人は戦うことをやめた時初めて敗北する 戦い続ける限りはまだ負けていない さあ 戦うぞ(数十分後…)やぁだあああ やめてえええ いやあああ)のうちの一人の顔がちらつくワードだが、無視して頂いて構わないし、必殺技「ザ・ゾーン」の所有についてもここでは割愛する。彼女は自身の恋には全く無関心であるものの、他人の恋には積極的に後押しし、場を整える。アーカーシャ端末の演算機能を大きく上回る状況把握力に加え、エルヴィン団長ばりの「今何をするべきか」を理解・行動する能力に長け、なんと学校の後輩が変装しておっさんとデートしていても、「あえて」スルーを决めこむことのできる少女――それが「この世界の片桐 アマネ」こと、鴻 千綿である。
◇◆◇◆◇
その後、二人は大まかな行程すら考えずに遊園地を満喫した。そのせいで、初っ端から観覧車に乗って、フードコートの長蛇の列には合計三回並び直し、締めには、はしゃぎすぎて疲れが溜まっていた七子のためにコーヒーカップが選ばれた。時折後ろから刺さる視線には、少年は終始無視を決め込んだが。ちなみに、七子は微塵も気づいていなかった。
「ありがとう 回復しました 完全に ――七子」
「よかった。じゃあ…帰ろっか。」
「二人にも お話ししよう! 今日のこと ――七子」
「そうだね。今日は最っ高の一日になったよ! 今日は来てくれてありがとう。」
そんな会話をしながら七子を家まで送り届け、七子ママからは感謝を、七子パパからは恨みを伝えられた。
「本当に 楽しかったよ また明日 ――七子」
「うん。じゃあ、また明日。」
別れの言葉を告げ、扉を閉じる七子に手を振ると少年は踵を返し、帰路に立った。
◇◆◇◆◇
時間は少し遡る。それはちょうど、少年と七子が談笑しながら七子の家に向かっているところだった。中学の頃の友人とカラオケに行っていた結子は、その光景を偶然目撃してしまった。
((あれって…少年くんと七子ちゃんだよね…なんでこんな時間に? まさか…))
その時少女の頭によぎったのは、考えたくもないような可能性。しかしながら少女はそれを、あり得ないと断じることができなかった。
((噓…))
そう思うともう、体は動き出していた。
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