【第七話】「いともたやすく行われるえげつない妄想」

 翌日、少年は担任に頭を下げ、五分ほど教師による励ましを受けたのち、席についた。横の千綿さんの席にはいつもの面々がおり、週末の予定について確認しあっていた。なんでも遊園地に行くとかで、少年もお誘いに預かったのだ。少女だけは先約があると言って来ないらしいが。

 「うん。楽しそうだね。行くよ。」

 このときには、少年は気づかなかったのだ。春と千綿が怪しく光ったことを。そして後に知ることになる。ラブコメ(擬き)における外野が、二人(?)にどれほど多大な影響を与えるのかを……

     ◇◆◇◆◇

 みんなで遊園地に行く日の前夜、少年たちは緑色のメッセージアプリであれこれとやり取りをしていた。そこで少年は、七子もメンバーに加わったことと、明日の天気が「曇りのち晴れところによって雷雨」であることを確認し、床に就いた。

     ◇◆◇◆◇

  「な…んだ…と(定期)」

 少年は、最寄りの駅からすぐそこのショッピングモールの待ち合わせ場所である噴水のある休憩スペースに辿り着き、呆然としていた。

 約束の時間より二十分早く到着し、一番乗りを果たしたところまでは良かった。のだが、そこから七子しか到着しないまま、約束の七時半になってしまったのだ。

 昨夜連絡していたメッセージアプリを開くと、春と千綿のドタキャンを知らせる二通の新着メッセージが届いていた。

 ((二人とも、ドタキャンって…やってんなぁ…))

     ◇◆◇◆◇

 席替えの一件以来、七子と少年の接触頻度は跳ね上がっていた。しかし、それは決して偶然でも運命でも宿命でもなく、春と主に千綿による「引き合わせ」だったのだ。しかし、いくら少年がガリ勉でも、この物語がラブコメとして成り立っていない以上、ラブコメ主人公の固有スキル『鈍感』や『難聴』、必殺技の『都合のいい解釈』は使用できない。そう、現在の少年はショウ・タッカーの言う「勘のいいガキ」だったのだ。さらに言うなら、この状況もなんとなく予測しており、リュックの中には『高校生のための恋愛ガイドブック』がちゃんと入っている。この後に、七子が少年に対して、異様に当たりがキツくなったりでもするのだろうか、いやない。

     ◇◆◇◆◇

 よくもわからない現実逃避をしながら、【少年】は二人に「お大事に」を送信し、七子の方を見た。以上なまでにその顔を赤らめている七子に、「どうしよう?」と問いかける。七子は、しばしの逡巡ののち

 「楽しみに してたし私は 行きたいな ――七子」

と書かれた短冊を渡した。

 「わかった。僕も楽しみにしてたし、行こっか。」

 そう答えた少年は、「飲み物買ってくるよ。何がいい?」とだけ尋ね、「ありがとう」と「水がいい‼ なければオモピス! 次オカリ ――七子」を受け取って、その場を後にした。

 少年は思った。

 (これで、冷たい水持ってったら、もしかして「はぁ? お水っていった常温に決まってるでしょ ったく こんな簡単なこともできないなんて 使えないわ 役立たず(CV.雪白七子)」って罵ってもらえるかなあ?)と。

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