【第六話】「実力問題:君の実力を示しなさい」

 翌日、少年は帰宅するなり机にへばりついて勉強していた。

 ((馬鹿な。この僕としたことが…やってしまった。宿題をやり忘れて放心状態に入るなんて…やってしまった。くそ。くそ。何やってんだ僕は。本気で勉強した訳ではなかった。本気で五十位以内を狙ったことはなかった。四宮先輩があそこまでやってくれたらよかったなあ…何言ってんだ僕は。「本気で言ったの?」なんて言って男子トイレに入ってくる財閥の令嬢なんてここにはいないのに…))

     ◇◆◇◆◇

 ガリ勉―――もはやなんの略称か正確に知るものはいないであろう、勉学に学生生活を懸ける人間を指す言葉。少年もこの「ガリ勉」君であった。

 結子たちとの会話で多少補強はされたものの、少年は基本勉学と二次元中心の生活を送っていたのだ。そんな人間にとっての「宿題忘れ」とは、人生最大の汚点ひいては一族の恥なのだ(真偽不明[参考:作者は余裕で遅れて出す常習犯だった])。

 少年は昨日、七子からの感謝状を開き、そのままPCで『放置少女』を放置しない作業に没頭していた。つまり…宿題をしていないまま学校に登校したのだ。案の定、春にそれを指摘されて思い出し、「まだ間に合う。まだ大丈夫。落ち着くんだ…『素数』を数えて落ち着くんだ…『素数』とは……」などと言い出して、149を素因数分解しようとしたあたりで担任の教師が入って来るのを確認し…(以下略)。―――

     ◇◆◇◆◇

 「カブトムシ」、「特異点」、「秘密の皇帝」を羅列し終えて、少年は最終ページの実力問題まで解き上げると大きく伸びをし、て後ろに倒れた。静閑な住宅街に轟く叫び声。少年はどうにか立ち上がり、お気に入りの回転椅子を起こす。

 「どったの、お兄ちゃん?」

 不意に声がして顔を向けると、妹がいた。

 「こけた」

 そう少年が答えると、そっか、とだけ言って妹は立ち去った。

 ((相も変わらずマイペースだな…))

 そう思って少年はスマホを取り出し、黒と白の入り混じったロゴマークをタップする。青い鳥の巣立ったそれを閲覧しながら、少年は思った。

 ((「俺いも」読も))

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