【第五話】「にいにはねー まごうことなきサル」
帰宅した少年は居間にいた母親に挨拶をすると、二階にある自身の部屋に入り、手紙を開いた。
正直に言おう。少年は期待していた。この手紙は自分への宛名がはっきりと書かれている。そして、千綿さんの何ともいえないような笑顔、加えて席を譲られた少女は心なしか顔を赤らめているように見えた。そして、残されたこの手紙……これは、もしや…
◇◆◇◆◇
「な…んだ…と」
少年は落胆した。そして同時に自身に失望した。彼女が残したそれは、ただの感謝状だったのだ。文面はこうだ。
「界君へ
君の席 譲ってくれて ありがとう ―――七子」
なぜ川柳をお礼にしたのか。その理由、それは彼女が、白雪七子が「川柳少女」だったからだ。
◇◆◇◆◇
川柳少女―――伝えたいことを五・七・五のリズムでしか発することのできない少女のことを指す言葉。その理由は、定型詩だと考えがまとまりやすいというものだが、ルックスはノーメイクなのに完璧、一途、別にコミュニケーション自体は苦手ではない、可愛い、綺麗、器量良し、と実質三拍子揃っている少女、それが雪白七子である。
◇◆◇◆◇
結局、少年はそのまま部屋に置かれているベッドに突っ伏し、少しだけ奇声を上げて、果てた。
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