【第四話】「委員長君だけがいない教室」

それからというもの、結子は毎日斜め前に座る少年に話しかけた。最初は困惑していた少年も、徐々に他人と話すことにも慣れていった。

 恒例の委員会決めも、「ガム君」や「キョウコさん」の本名を知る、またと無い機会と肯定的に捉えることができた。

 定期テスト終わりの席替えでは、一年分のガチャ石を注ぎ込んだ300連を直前にしたレベルの加持祈祷を夜通し行い、その姿を妹に見られて無事密教では無くなった。

 その甲斐あってか、窓際後列二番目というなかなかのポジションを獲得した。この少年がキョンなら「さらばハルヒ〜 フォーエバ〜(CV.杉田智和)」などと言っていいるところだろうが、この少年はキョンではない。

 「久しぶりにふんもっふの声を聞くと、めちゃくちゃイケボに聞こえるよなあ」などということを定期的に考えてしまう、そんな残念な少年であるのだ。

    ◇◆◇◆◇

 席替え――学校という「社会の縮図」において定期的に行われる、ただ座る席を変えるだけの行為でありながら、ほとんどの学生からは一種の祭りのような認識をされている学校行事の一つ。くじ引きや阿弥陀くじ、ランダム、果ては教員の都合などさまざまな決定方法があり、普段話さない人間との交流を主な目的と設定される場合が多い。

 このシステムは生徒同士の関係性の破壊のきっかけとなることがあるため、その予測不能性を乗り越えようとする生徒が後を絶たず、くじ方式などでは利害の一致する人間同士での闇取引がしばしば見受けられる、それが「席替え」である。

    ◇◆◇◆◇

 現実逃避タイム(定期)を終えた少年は、考えていた。

 ((どうしょーかな 結子ちゃんともかすが君とも千綿ちわたさんとも離れ離れになってしまった… いっそのことやるか、闇取引を…))

 そんな考えが少年の頭の片隅をよぎった時だった。

 「界くーん、ちょっとこっち来てー」

 その声の主は、千綿さんだった。

 「こっちに席交換して欲しいって子がいてさー お願いできない?」

 「うん。大丈夫だよ。」

 そんな言葉を交わして、席の交換をし終え、席に着こうとした……ができなかった。席に座る途中で、違和感があった。なぜならこの席には、とても交換したての席に忘れた、そうは思えないものが残っていたからだ。かといって、少年はそれを「忘れてますよ」なんて言って持って行く勇気もなかった。

 そう、その机の上にあったのはズバリ……少年へ向けて綴られた手紙だったのだ。

 横を見ると、にまぁと笑った千綿さんが、足を組んで座っていた。

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