【第三話】「電車の中であったような…」

 少年は驚愕した。ここはガリ勉諸君が集いし学校じゃないのかなんでこんなイケイケリア充どもが繁茂してるんだちゃんと湧き潰ししとけよ、と。

 しかしその言葉を胸の奥に収納すると、黒板に張り出されたプリントから自分の席を確認し、席についた。

 「あ、さかいくんだー おはよー」 

 何ということでしょう。周りに大勢人がいるにも拘らず、突然少女――確かプリントには「高比良たかひら」と書いてあったか――は少年に話しかけたではありませんか。しかも名前入りで。これではむしろ勘違いのしようがない。今まで空気であった少年の認知度が今、格段に跳ね上がった。そして、それを肌で感じながら少年は口を開き、言った。

 「えっ、あ、はい、その…おはようございます」

 少年は困惑していた。去年仲の良かった(つもりの)友人とは別のクラスになったことで、この材木座組では陽子さんばりのハッピーセットの玩具プレイ、もとい地蔵プレイを決め込むつもりでいたからである。というか『陽子さん、すがりよる。』を読者の皆さんはご存知なのだろうか。名作です。特にネチネチ。大好き。

     ◇◆◇◆◇

 いつもの現実逃避を終えると少年の脳は(比較的)正常な判断を始めた。 

 ((っつーか、誰だこの人? めちゃくちゃ「君すい」のヒロインっぽい…))

 仕方がない。仕方がないんだ!陰キャの巣窟であるコンピ研(偏見)にすら、入部届を出しに行けないチキンなんだから。休み時間は寝るか飯食うか本読むしかできない作者が作った、高レベル陰キャなんだから。

 「え、結子ゆうこ? なにこの人、知り合い?」

 ((おお…キョウコさんもいるのか… あれ? ガム君は?))

 「おお、界も結子の知り合いだったの? カメレオンキャンディーいる?」

 ((ガム君までいる…だとっ))

 「なるほど いや、いいよ それより塵取り持ってきてよ」

 「え、いやいやいやおかしいだろ? 何で君は何も突っ込んでくれないの? てゆうか塵取り? ん? 何で?」

 ((ペロスペロ君は「君すい」知らないのか。結構有名だと思ってたんだけどな…))

 「いや大丈夫 気にしないで大丈夫です 僕たちの世界じゃ常識だっただけだから…」

 「すげえ常識だな、こりゃ。で、界は異世界人なの?」

 思考停止。

 「え?」

 「いやだって、俺らの世界じゃそんな常識聞いたことないし」

 ((いやほんとそーですよね僕みたいなクソ陰キャの会話つまんないですよねーなんかほんと申し訳ございません))

 「ちょっ、やめなよ 界くん、困ってんじゃん!」

 「ホントホント、かわいそうだよ!」

 ((なんかよく分からんが庇ってくれてる 高比良さんも親友さんも良い人だなー))

 「いやまじゴメンね ちょっと興奮すると詰問するみたいになっちゃうくてさ」

 「い、いや 別に…」

     ◇◆◇◆◇

 ここ香龍高校は、始業式に授業は無く、HRでの担任の自己紹介と春休みの課題提出、そして始業式、その後個人の自己紹介となっている。

 まだHRすら始まっていないためか、教室は少し賑やかだった。

 そして少年はHRまでの20分、ひたすら陽キャ3人の話し相手にされていたのであった。

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