婚約と婚約破棄の企み
「来月、宮廷舞踏会が開催かれるだろう?そこでベルナルト様とお前の婚約のお披露目をすることが決定したぞ」
と言ったお父様は、それはそれは嬉しそうに笑った。
ちょっと、ベルナルド様!!予定と違うじゃない!!??
しっかり王様をとめなさいよお!弟でしょ!!!!????
「舞踏会まで時間がないぞ。明日からは急いで準備を進めなさい。ここでの仕事は休んでいいから」
「お、お父様!少しお待ちください!」
「ん?今日はもう帰るか?」
「そうではなく、そんなに急繕いで準備する必要があるのならば、お披露目を先にすればよいではないですか?」
「何を馬鹿なことを言っておる!やっと!あのベルナルド様がやっと婚約するとおっしゃったのだぞ!陛下も気が変わらぬうちに周りに知らしめる必要があるとおっしゃっておった」
ああ、もうこのバカ親父どもがああ!!おっと、国王は兄だったわね、バカ兄がああ!!
「お父様、私、ベルナルド様にお会いしてきます」
「ああ、そうしなさいそうしなさい。よろしくお伝えしてくれ」
嬉しそうに笑っているお父様を放って、アイシャと急いで部屋を出た。
***
通いなれたベルナルド様の執務室に向かって急いで歩く。
走りたい気持ちだったけれど、伯爵令嬢がダッシュなんてお行儀の悪いことができるわけもなく、優雅に、しかし最大限の高速で早歩きをする。
途中出くわす貴族たちに
「おめでとうございます」
「この度はおめでとうございます」
とお祝いの言葉を掛けられる。
なんということでしょう、もう他の貴族たちに婚約の話が広まっているわ!!
「カノン!」
上方から声が聞こえた。見上げると、マルクス王子が落ちてきた階段の上からベルナルド様が走って降りてくる。
「ベルナルド様!」
どういうことですか!?国王陛下がこの婚約にめっちゃ乗り気になっちゃってるんですけど!?
なるべく婚約者候補のままでいる予定ではなかったのですか?
駆け下りたベルナルド様が私の前に来る、怒りまくっている私は思わずベルナルド様に詰め寄った。
ベルナルト様を見上げて睨めつけ、ベルナルド様は私を見下ろした。
「カノン、申し訳な「「「「「「わあああああ!!」」」」」」」
急に複数の大声がした。
私はその声に驚いて固まった。ベルナルド様は反射的なのだろうか、私の肩を引き寄せご自分の胸元に私を匿った。
真横ではルーカス様が周囲に向かって警戒して剣を構えている。
「ご婚約おめでとうございます!」
「おめでとうございます!!!」
「「「ご婚約おめでとうございます!!!!」」」
周囲にいる貴族たちが次々に祝いの言葉を述べていく。
「な、何、これ・・・・」
私はベルナルド様の腕の中で呆然としているのだった。
***
ベルナルド様の執務室にある応接室のソファにベルナルド様、ルーカス様、アイシャと私の4人が腰かけて進まない話し合いが進められていた。
私達が『ベルナルド様の婚約者候補がカノン一人に絞られた』という噂を広めるつもりが、
国王陛下とお父様が手を組んで『婚約者決定』の噂に変え、周りを固めて行ったということだった。
「こうなってはお披露目しないわけにはいかなくなってきたぞ」
「それでは婚約してしまいますわ」
「・・・・どうにかならないか?」
ベルナルド様はルーカス様に問うた。ルーカス様は両手をあげて、
「なりませんね」
とお手上げポーズを見せた。
「そうですね・・・しいて言うなら・・・」
「「「しいて言うなら?」」」
ごくリ。
「穏便な婚約破棄を」
「「「はあああああ」」」
「やはりそれしかないかあ」
「お待ちください。それではカノン様に傷がついてしまいますわ」
焦るアイシャに私は手を振った。
「いいのよ、アイシャ。私はどなたとも結婚したくないのだから」
「カノン様!」
「え?そうなのか?」
怒るアイシャと驚くルーカス様。
ルーカス様、敬語忘れていますわよ。それに今更驚くことかしら?
「私、お伝えしておりましたよね?」
「そ、そうだが・・・。てっきりベルナルド様に近づく作戦か何かかと・・・」
「は?契約書まで結んでおいて何をおっしゃっているのやら」
瑠伽を思い出して愛のない結婚は断固拒否すると決めたのに、生まれ変わりのルーカス様が何を仰っているのだか?・・・まあ、本人、その記憶全くないようですけれど。
「私も作戦だと思っていた・・・」
「は?ベルナルド様までですか?」
「すまない・・・」
「はあ。ですが、まあ、誤解が解けて良かったですわ」
うなだれて首を揉んだ。
「確かに、カノンと一緒にいても恋人同士のような甘い雰囲気にならないからおかしいとは思っていたのだ」
「あの、お二人はデートの間、なんのお話をなさっていたのでございますか?」
「8割仕事、2割食べ物の話・・・かな?」
私に視線を向けるベルナルド様に大きく頷いた。
「はああああ。自己アピールしましょうよ」
がっくりとうなだれるアイシャに対し、
「仕事の面ではしっかりアピールできていたと思うわよ」
と片手でガッツポーズをして見せると、「はあああ」と更に深い溜息をつかれた。
「カノン様が他の殿方とご結婚する気がないのであれば、婚約破棄が最適でしょう。
ベルナルト様としっかりお付き合いされて、だんだん二人が喧喧囂囂となり、犬猿の仲と言われる程仲たがいをしていただき、婚約破棄の流れではいかがでしょう?」
「それって、うちのハウアー家の箔が落ちないかしら?」
「・・・落ちますね」
「では、傍からみてカノンには落ち度がないが、私の方に問題があって婚約破棄にすればいい。『やはりエミリアーノのことが忘れられない』という理由で婚約破棄にすればいい」
「あの・・・亡くなられた婚約者様をそのような言い訳にするのは・・・いかがなものかと」
流石に愛していた婚約者様がお可哀想だよ・・・。
「ああ、問題ない。エミリアーノは生きているからな」
「「はあ!?」」
アイシャと驚いて目を合わせた。
「エミリアーノには他に好きな男がいたのだよ。その男との間に子供ができたのでこっそりと死んだことにして、名を変えて幸せに暮らしているから安心するがいい」
ええええええ!?
「それでは元婚約・・・エミリアーノ様を隠れ蓑にして結婚から逃げていらしたのですか?」
「そうだよ。私に子供ができたとして、それが男児だっとしたら、まだ幼いマルクスの地位が脅かされるかもしれないだろう?マルクスが成人して王太子として周囲からも納得できるようになるまで結婚する気はないのだよ」
・・・どんだけ叔父馬鹿なんだよ?と言いたいのをググっと堪えた。
「では、私は『エミリアーノが忘れられない』と婚約破棄を願おう」
「私は年齢を理由に次の結婚を阻止いたしますわ!あ!!再就職先で父のとこに残れなかった時は、ベルナルト様の所で雇ってくださいませね」
「いいだろう」
ベルナルト様と私は立ち上がり、合意の握手を交わした。
その横でソファに座ったままのルーカス様とアイシャは頭を抱えるのだった。
元彼の声で前世の記憶を取り戻しました 大町凛 @rin-O-machi
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