婚約者候補から婚約者へ


数日後。父の執務室にルーカス様が訪れた。

「『二毛作』とやらについて話を聞かせてもらいたい」

ということだった。


「私もあまり詳しいわけではないのですが」

と前置きをしたのち、受験勉強した内容を思い出しながら説明をした。

「海を挟んだ南国では年に2回、3回と収穫してはまた植えるということをしている。同じ作物でだ。それでもその国では常に一定量の収穫があるのに対し、我が国内で同様に行ってもうまく育たないのはなぜだとお考えですか?」

「うーん。そうですね。温かい土地柄で1年の寒暖差があまりないからでしょうか。我が国のように夏暑く、冬は大雪が降るようなところで同じ作物を作るのは無理ですわ。

例えば、春にいもを植え、収穫後の秋に菜物を植えるなどがあったと思います。どの種類がよいかはいくつか試してみて、相性が良い組み合わせかを知らべる価値はあると思います」

「なるほど、やってみましょう。それにしても・・・」

「?」

「カノン様はよく勉強されていたのですね」

「え?いえ。そんなことは・・・」


私だって勉強はしているけれど、この知識は奏音のものだからなあ。返事に困ってしまう。


そんな私を見て、ルーカス様はふわりと微笑んだ。

あ・・・・。

その優しそうな微笑みに、瑠伽の笑顔を重ねてしまって、ドキッとする。


「時間をとらせてしまって申し訳ない。とてもよい話をうかがえました」

胸のときめきをそっと隠して、私も微笑んだ。

「お役に立てれたのでしたら、光栄でございます」


ルーカス様をお見送りして、私はアイシャに紅茶を入れてもらった。

つい先程まで使っていた応接室のソファに座って、温かい紅茶を飲み、ほっと一息つく。

「安定のおいしさですわね」

と褒めた。


「カノン様?」

「ん?」

「最近、カノン様の笑顔が自然ととても可愛らしゅうございますよ」

「え?どうしたの突然?」

「少し前から思っていたのですが、指で口角をあげる癖がなくなって、自然な笑顔をなさっています」

確かに・・・。というより、18歳になっても作り笑い一つもできない方がやばいんじゃないのかしら。

奏音時代から、社会人として職に就いていたのですもの。作り笑顔だって楽勝ですわ。

「アイシャは本当に褒め上手ですわね」

と微笑んだ。


『コンコンコン』


お父様がいらした。

その顔は貴族らしからぬ、喜びの感情が表に出まくっている。

相当いいことがあったのね。


「何かいいことでもございましたか?」

と尋ねると、お父様は笑い皺をさらに深めて、私が座っている長ソファに腰を降ろした。


「カノン、先程陛下と話をしてきたぞ」

私にくっつくように座って両手を取る。

ち、近いなあ。

私は距離の近さに背中を逸らせながら、

「国王陛下と・・・ですか?」

と尋ねた。

「ああ。来月、宮廷舞踏会が開催かれるだろう?そこでベルナルト様とお前の婚約のお披露目をすることが決定したぞ。よかったな」

「ええええええ!!??」

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