ピクニックと好感度
国王の許可が出た後で大きく変わったことは2つ。
一つは毎日行っていたご機嫌伺いに行かなくなったこと。
もう一つは4,5日に1回、ベルナルド様と昼食をご一緒したり、お出かけをするようになったことだった。
「(デート的なヤツは)いりますか、それ?」
と言うと、
「「「いるだろう(でしょう)」」」
と声を合わせて言われてしまったのは、作戦会議の時だった。
何回か目のデート。
その日の昼食は王城近くの池でピクニックをする予定だった。
ピクニックと言えば、おにぎりかサンドイッチ!
お米はないのでおにぎりは諦めて、王城の料理長にサンドイッチを頼んだ。大好物の卵サンドが食べたい!!
わくわくした気分でピクニックに行くのだった。
新緑の緑が生える池のほとりに大きな布を広げ、ベルナルド様が座った。その隣に私も座る。
アイシャがポットに入れてきた紅茶を注いで、ルーカス様が王城の料理長に作ってもらった昼食をバスケットから出した。
ピクニックとは思えないほどの豪華料理とサンドイッチを出した。
「準備ができたのなら、お二人も座ってくださいな」
「いえ、私たちは」と遠慮する二人に、
「ピクニックはみんなで食べたほうがおいしいのですよ。
ほら、ルーカス様もご一緒に。アイシャもお座りなさい。」
と無理やり座らせて、4人は広げられた料理を中心に丸く座った。
ルーカス様の毒見を待って私は卵サンドに手を伸ばした。
わーい!
パクリと食べた。
えええ!!!!!?????
衝撃的なことが分かったのだ!!
卵サンドが卵サンドではありませんわ!!
食べた卵サンドには塩コショウで味付けされたスクランブルエッグが挟まれていた。
がっくりとうなだれながら、カノンの記憶の中からマヨネーズを探す・・・・。
なんと、この世界にマヨネーズがない!!!!!!
何てことでしょう・・・。
マヨネーズがなければ卵サンドが作れないじゃないの!
スクランブルエッグのサンドイッチもおいしいわよ。
おいしいけれど、ゆで卵をぐちゃぐちゃにしてマヨネーズと塩コショウで味付けされた卵サンドが食べたいのよおおお!!
「カノン、どうしたのだ?口に合わないか?」
ベルナルド様が不審そうに見ている。
慌てて首を振り、「私が想像していた卵サンドと違っていて驚いただけですわ。このスクランブルエッグがふわふわでおいしいなあって…思ったんです」
せっかく作っていただいたサンドイッチですもの、違ってるなんて言えるわけがない。下手したら料理長がクビになっちゃうわよ。
「ははは、そんなに卵のサンドイッチが好きなのか」
ベルナルド様は嬉しそうに笑った。
仕方ない。
ないなら作ろう!!
奏音時代も何度か作ったことがある。また今度家で作ることにしよう。
パクパクと料理を食べながら心に誓うのだった。
***
昼食後。
ベルナルド様と二人、並んで池の周りをお散歩する。
2人といっても、少し離れたところから側仕えや護衛騎士たちが見守っているのだ。
なんとムードのないものだ。
そして私たちの会話も仕事の話で全くムードがない。
「ほほう、ニモウサク?」
「ええ。ずっと同じものを作っていると土地がやせ細ってきてしまって収穫量が減るというものです。そのような時は種類の違う作物を植えるといいと聞いたことがあります」
奏音時代の地理で習ったことを思い出してアドバイスしてみる。
教科書の知識だから、この世界で当てはまるか不安はあるが、国民全員が飢えることなく食べるために必要なことならば、前世の記憶も役立つかもしれない。
「あとで調べる様に伝えよう」
と言ったベルナルド様に微笑む。
「あ!」
一歩、ベルナルド様から下がって距離を置いた私をみて、周囲に警戒のある目を向けた。
「どうした?」
こわッ!蝶だよ!!
ベルナルド様の肩に蝶が止まっている!
私は虫が苦手。蝶はまだこちらに来なければ平気だけれど、バッタや蜘蛛は本気無理!
距離をとったまま、肩先を指さした。
「蝶が。肩に蝶が止まっております」
「ん?なんだ蝶か」
ご自身の肩を見て、そっと手を当てて蝶を逃がした。
「春だな」
「春ですねえ」
窓超しや遠くに飛んでいる分には蝶も春らしくてかわいらしいのですが・・・。
「どうなさいました?」
ルーカス様とアイシャが私たちの様子を見て駆けてきた。
「ああ、ごめんなさい。蝶がいたのに驚いて声をあげてしまったの」
「そうでございましたか。カノン様が虫を恐がるのは珍しいですね」
「え?そう?」
そう言われてみれば、虫が恐くなったのは奏音の記憶を思い出したからだわ。
かつて一人暮らしを始めたばかりの頃、夜中にGが出てきて・・・殺虫スプレーをかけたら逆にこちらに飛んできて反撃されるという、恐い目にあったのだ。あれ以来虫全般が苦手になって・・・。
「以前、弟妹様と虫取りをなさって、沢山捕れた虫たちをお屋敷に持って帰って奥様に見せたら卒倒なさって」
「ああ、そういえば、そんなこともあったわね。あの時はメイド長にこれでもかという程怒られたんだったわ」
「それは怒られるな」
虫を平気で触れる時もあったわね・・・奏音時代を思い出した今となっては、もう決して触ることはないですわね。遠い目をしていると皆に笑われてしまった。
こんなふうに4人で穏やかに話すようになるとは思ってもみなかったなあ・・・。
そんなことを思っていると、ルーカス様が「ふふ」っと薄く笑った。
「カノン様、今日は虫を連れて馬車には乗らないでくださいね」
「もう捕まえたりしないわよ」
「そうですか。ところで、止まっていますよ」
「ええ¥?」
ルーカス様に肩を指さされる。
なんですって!?虫!?
パッと肩を見ると、なんとそこにいたのは蝶ではなく、カマキリが止まっていた
きゃーーーーーー!
「きゃああ!!!」
いやあああああああ!!!
カマキリ!カマキリ!カマキリ!カマキリ!カマキリ!
こーーーーーわーーーーーーいいいいいいいいいいい!!!!!
腕をぶんぶんぶんと振り回す。
「カ、カノン様!」
アイシャが手を出そうとするが、躊躇している。
「大丈夫よ!カ、カマキリくらい!アイシャは虫が苦手でしょう?」
ぶんぶんぶんと振っていた腕をピタッと止めて、落ちたか確認する。
しかしそこには、振り落とされてはなるものかとでも思った(?)カマキリが服にしがみついた(ように見えた)。
まだいる!!!
ぶんぶんぶんぶん!再度腕を振り回す。
ピタッと止めて腕を見て、再び落ちたか確認する。
目があった(ように見えた)カマキリは両手をあげてこちらに攻撃態勢をとった。
いやああああああ!!!
ぶんぶんと振ろうとした腕をルーカス様が止める。
「じっとしてください、今取りますから」
「ううううううううう」
半泣きになりながら、じっとする。
サワッ。
皮膚の出た鎖骨の上あたりに、カマキリの脚を感じた。
いやああああああああ!!!!!
じっとするように言われたので、体を石のように固くして心の中で叫びあげる!
恐いよう恐いよう恐いよう。
ぎゅっと目を閉じてルーカス様がカマキリを取ってくれるのを待った。
「はい、もういいですよ、カノン様」
「ううう」
唸りながらそっと目を開けた。
パチパチと瞬きをして、溢れる涙を目から落とした。
そっと肩を確認して、そこにカマキリがいなくなったのを確認した。
「ううう。ありがとうございました」
「虫は平気なのではなかったのか?」
「うう。突然だったから驚いただけですわ。そ、それにカマキリはカマを持っているのですよ。危険ですわ」
まだ涙が出てきてしまうので瞬きをしながら、言い訳をした。
ベルナルド様は「はいはい」と言いながら、指先で涙を脱ぐってくれる。
「泣き虫だな」
と少し笑っている声は優しいものだった。
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