ベルナルト様との契約【王子殿下の失恋】

ベルナルド様は私とのお付き合いを国王に報告した。


正式な婚約の前に結婚を前提としたお付き合いというやつをしたいとお願いしたのだった。

王族との結婚は簡単に離婚できるものではないのだから、一緒に過ごして王族のことを理解した上で、互いに愛を育みたいと。だから、婚約者候補は私一人にして欲しいと伝えたそうだ。


なんと珍しいわがままなお願い事だったけれど、国王は喜んで許可を出してくださった。

ベルナルド様は事故の後はずっと結婚を拒んでいらっしゃったので、他の人との結婚にほんの少しでも興味を示したことに安堵したとのことだった。


私は父から重い期待を持たれたのは当然だったか、国王からもベルナルド様の事を頼まれてしまった。


「ベルナルドには幸せになって欲しいのだ。あやつの心を開いてほしい、よろしく頼む」

と頭を下げられてしまった。弟想いの国王だけれど、簡単に頭を下げるのはどうなんだと人間味が溢れすぎる国王に対し心配になる。同時に、心の中で深く深くお詫びした。


申し訳ございません。契約婚約者候補(長いな)です。

実際に結婚することはないのです。と。


こんな感じで弟想いの国王だから、マルクス王子殿下が横から反対だと叫んだところで、私が婚約者候補から外れることはなかった。

それどころか「階段から落ちた心臓の鼓動と恋愛の鼓動はよく似ておるからな。すぐに勘違いに気が付くであろう」と、吊り橋効果が長く続かない事をよくご存じのようだった。



お祝いムードの中、マルクス王子殿下は不満たらたらな表情をしていた。



  ***



国王から許可をいただいている頃、私はベルナルト様の執務室にある応接室にいた。

王子殿下はベルナルド様の所に来るだろうと予測なさっていたベルナルド様の指示で、私とアイシャが呼ばれ、ルーカス様に見張られるようにして座っていた。

もし王子殿下が父の執務室に来たと来ても、私がここにいることが伝わればよいということだった。


居心地の悪さを感じつつ、紅茶を飲みながらベルナルド様のお帰りを待っていた。



そこへベルナルド様とマルクス王子殿下が入って来た。


「待たせたね、カノン」

「べ、ベルナルド様」


ベルナルド様が両手を広げて私に近付いて来る。

いつもと全く違う、甘い艶のある声で私を呼ぶから、私は動揺して声が上擦ってしまった。


「陛下から許可が下りたよ」

「それはようございました」

ベルナルド様の色っぽい微笑みに、私は何とか微笑み返す。


聞いてない!こんな顔で来るなんて聞いてないわよ!!

どれだけ色気をぶち込んでくるのよ!!

こんなにラブラブな雰囲気で来たら、婚約者候補じゃなくて婚約の許可が下りたみたいに見えるわ?!


しかもいつもより近い距離感にまで近づいてきたので、反射的につい一歩下がってしまった。

やばい!さがるのは不自然だわ!


慌てて両頬に手を当てて、

「ベルナルド様、マルクス王子殿下がいらっしゃいますのに、このように近付いては恥ずかしいですわ」

「ああ、すまない。つい嬉しくてね」

頭を撫でられて、逃げ出したくなるのをぐっとこらえる。


すると不機嫌な表情をしたマルクス王子が

「カノン!」

と呼んだ。「はい」と返事をして、ベルナルド様につながれた手を放し、マルクス王子に向きなおる。

「本当に叔父上と婚約するか?それでカノンはよいのか?今なら断れるぞ?」

嘘を吐く罪悪感を覚えながら、しっかりと微笑んで見せる。

「はい。私、ずっとベルナルド様をお慕いしておりましたから、とても光栄に思っておりますわ」


「だが!カノンが毎日叔父上の所に行っても叔父上は会ってくれなかったと聞いているぞ!それでいいのか!?」

やはり追い返され続けていたのは知れ渡っていたのね。

「それでも今はこうしてお部屋に入ることも、お隣に立つことも許されましたわ。

マルクス王子殿下。王子殿下とのご縁のおかげでこうしてベルナルド様と心を通わせることができました。どんなにお礼申し上げても足りません。本当にありがとうございます」

嬉しそうにベルナルト様と目を合わせながら伝え、王子殿下に深くお辞儀をした。


「マルクス、申し訳ない。だが、其方のおかげだ。感謝しているよ」

ベルナルド様もきっちりと嘘を吐いた。


王子殿下は目に涙を溜めつつ、

「分かったよ、カノン・・・。頭をあげてくれ。

叔父上!カノンを泣かせることがあれば私は許しません!」

と大きな声で言った。

うう


うう。なんか、ごめん。

子供に泣かれると、いじめたような気分になってしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


王子殿下はくるりを向きを変えて、扉の前に立った。

側仕えが扉を開けると、振り返って私達ににっこりと笑いかけた。


「婚約、おめでとう!!」


元気よく言って部屋を出て行った。




しばらく私たちは何も言わず、閉じられたドアを見つめた。


「婚約ではなく、婚約者候補が一人に絞られただけどな」

と呟くベルナルド様に、

「なんだか・・・罪悪感で胸が締め付けられそうです」

と言うと、

「いや。よいことをしたのだ。罪悪感など不要だ」

「・・・・」

「・・・・」

「・・・・」


「ちょっと、ベルナルド様。『よいこと』って何ですか?まるで私から離れてよかったみたいな言い方ですわよ」

ベルナルド様に文句を言うと、横からルーカス様が

「毒牙からのがれたのですから、よかったというのは事実でしょう?」

と口を出した。すると、アイシャが、

「カノン様はお美しくて、賢くて、優しいお方です!『毒牙』なんてありません!」

と怒った。

「アイシャあああああ♡」

と抱きしめると、ベルナルド様が笑いながら、

「はいはい、3人ともそのくらいにしてこれからのことを決めて行くよ」

と言った。


それぞれ椅子に座った4人はテーブルを囲んでこれからの予定を詰めていった。




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