第44話 は、恥ずかしい……!

「労働……?」


 目の前で首を傾げる少年に、僕はにやりと笑った。


「そう、労働。働いて罪を清算しようってこと」

「それは分かるけど……いったい、どんな仕事をすればいいんだ?」


 少しだけ少年の顔色が曇る。


 処刑されないだけマシだと考えているが、おそらくかなり厳しい仕事内容を言い渡されるだろう——と思っているに違いない。


 だが、彼らには悪いが、仕事内容はそんなに難しいことではなかった。


 なるべくにこやかに笑みを浮かべたまま答える。


「仕事は僕の補佐かな」

「……え?」

「実はね、僕はこの後宮で魔法道具作りをしてるんだ」


「お二人も名前くらいは聞いたことがありませんか? この方はユークリウス様。帝国でも有数の天才付与師です」


「ユークリウス……あ」


 少年は思い出す。

 顔を青くして、おそるおそる僕を見た。


「お、俺らに依頼を出した人が言ってた。最近、見たこともない魔法道具を開発する新進気鋭の付与師が後宮にいるって。それが、兄ちゃんなのか?」


「たぶんね。エルネスタやいろんな人は俺のことを天才って言うけど、別にそこまでじゃないと思うよ」


 現に今回の魔法道具の故障原因に気づいたのは、俺じゃなくてベテラン付与師のオスカーさんたちだった。


 わざわざ魔力を観測できる魔法道具を借りたっていうのに、答えに行き着けなかったのは恥ずかしい。


 そもそも、俺の目がもっと高性能だったらな……空中に漂う魔力までは見えない。あくまで、魔法として刻まれた魔力が見えるってだけだ。


 まさに付与師として求められる能力。万能だったら、もっと早くに気づけていただろう。


「わ、悪いけど、俺もユキにも付与師としての才能はねぇぞ」

「別に付与師として雇いたいわけじゃないんだ。身の周りを世話をしてくれるだけでいいよ」

「身の回りの世話?」


「普段はメイドがしてくれるんだけどね。メイドさんは堅苦しいし、エルネスタが嫌がるんだ」


 ちらりと隣に座る皇女様を見た。


 彼女は俺の視線から逃げるように目を逸らす。自分がどれだけ理不尽なことを言ってるのか、少しは理解してくれたかな?


 なんて内心で笑いながら話を続ける。


「それに引き換え、君たちは子供だから問題ない。エルネスタの心配の種が一つ消えるってことさ」


 個人的には彼らくらい年齢が微妙に離れているほうが接しやすい。


「で、でも……俺ら犯罪者を近くに置くなんて、他の人にバレたら……」


「平気平気。君たちにはやや暮らしにくい環境かもしれないけど、それは罰の一環だ、しょうがない」


 手錠の一つでもすれば周りも納得するだろう。知らんけど。


「その分、給金なんかは弾むから納得してくれると嬉しいな」


「な、納得するもなにも……俺らには断る資格はない。それを兄ちゃんが望むなら、俺もユキもやるしかねぇ」


「ありがとう。そう言ってくれると助かるよ」

「話は決まりましたね」


 パン、と最後にエルネスタが両手を叩いて話を終わらせる。


 これで今から彼らは正式な僕の……部下ってことになるのかな?


 使用人みたいなものだからくくりとしては微妙だが、まあそこはどうでもいい。肩書にはこだわらない。


「では、あなたたちには隣室を与えます。兄妹仲良く暮らしなさい。それと、今後は「兄ちゃん」ではなく、ユークリウス様と呼ぶように。いいですね?」


「わかっ……分かりました、エルネスタ殿下」

「よろしい」


 早速口調を改めた少年にエルネスタはにこやかに笑った。

 俺はソファから立ち上がり、ベッドで横になっているユキの下へ。


 彼女の隣に腰を下ろすと、こちらを見上げる少女に視線を合わせた。


「そういうわけだから、今後は俺の世話係としてよろしくね、ユキ」

「は、はい……でも、本当にいいのでしょうか?」


「もちろんだよ。君たちがやったことは本来なら許されないことだけど、幸いにも犠牲者は出ていない。俺たちは子供をあまり罰したくはないし、ちょうどいい落とし所じゃないかな?」


 手を伸ばし、ユキの頭を撫でながら笑う。


「そんなわけで、今後は仲良くしよう。もう、君たちが苦しむ必要はないんだ」

「ユークリウス様……」

「うふふ」

「ッ」


 正面から聞こえてきたエルネスタの笑い声に、本能がびくりと肩を跳ねさせる。


 視線を急いで戻すと、いつの間にか俺の目の前にはエルネスタが立っていた。


「え、エルネスタ? どうしたの?」

「どうしたも何も、ユークリウス様が浮気しそうだったので監視中です」

「相手は子供だよ⁉」

「それでもです! やっぱり彼女は私の……」


 なぜか急に態度を急変したエルネスタ。

 彼女にはユキがどういう風に見えているんだろう……。


 少なくとも五歳かそれ以上歳が離れている。別に惚れたりしないよ、僕も彼女も……。


 呆れながらも、エルネスタの機嫌をなんとか戻そうとする。


 結果、僕はユキたちの前でひたすらイチャイチャするはめになった。


 は、恥ずかしい……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺の悪役転生は終わってる 反面教師@6シリーズ書籍化予定! @hanmenkyousi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ