第43話 体で払ってもらおうか

 犯罪者を捕らえる。


 今回、俺が犯罪者の男性に対して使ったのは、前世で『スタンガン』と呼ばれる物の改良版だ。

 いわゆるテーザー銃と呼ばれるやつね。あれをイメージして、筒から紐の付いた針を飛ばし、それを刺して対象を痺れさせる。


 意外とこのスタンガンを作るのに手間がかかった。

 電気系の魔法属性を付与するのは大変だったし、紐に絶縁の効果を与えるのも大変だった。


 結局、針自体に電気系の付与を施し、筒には放出——風系統の魔法かな? を付与して簡易的な銃もどきを作った。

 一つの魔法道具に三種類もの付与を加えるのは、非常に困難である。なるべく急いで作っても丸一日はかかった。


 けど、その甲斐もあってか、逃げる犯人を追いかけた先で、新たな犯罪者たちを捕まえることに成功する

 ちょっと意外だったのは……。


「まさか君たちが魔法道具を壊していたとはね」


 件の、魔法道具故障事件の犯人が、一昨日助けた子供たちだったこと。


 捕らえた男たちの声は大きかった。追いかけていた俺とエルネスタの耳にも届いている。

 だから、少年と少女が魔法道具を壊した犯人で、捕らえた男たちがそれを命じていたことも知った。


 男に捕まっていたことで、強力な電気を浴びて体が少しばかり痺れている少女。彼女の傍にいき、抱き上げながら訊ねる。


「なんであんなことを……後宮の魔法道具を壊したりしたんだい?」

「……私たちは、孤児です」


 ある程度動けるようになったのか、少女は俺の懐でぽつぽつと話を始めた。

 その瞳には、すでに諦めの色が滲んでいる。


「お兄ちゃんは私を守るために、生きるために道を踏み外しました。謝っても済む問題じゃないことは分かっています。分かっていて、私たちは後宮に忍び込みました」


 少女ユキの体が震えていた。

 少しすると、倒れていた少年が俺の下にやって来る。


「ま、待ってくれ! 兄ちゃん。ユキは、ユキは関係ない! 実行したのは俺だ!」

「それを俺に信じろと?」

「ッ」


 自分でも都合のいいことを言ってる自覚はあるのだろう。

 拳を握り締め、口から血を流しながら少年は俯いた。

 代わりに、抱き上げられた少女が漏らす。


「もう……いいんだよ、お兄ちゃん。私、これでよかったんだと思う」

「ユキ? 何を……」

「こうして悪事がバレて、これから罰を与えられる。それでよかったんだよ。私は、ずっと不満だった。なんでこんなことをしなくちゃいけないのかって。なんで、お兄ちゃんはあんなに苦しみながら魔法道具を壊してるのかって、ずっと悩んでた」

「俺は……お前さえ、幸せになってくれれば……」

「他の人を蹴落としてまで、私たちが幸せになっていい理由なんてないんだよ」

「ユ、キ」


 少年は膝を突く。その間にも、少年たちに暴力を振るおうとしていた男たちは、騎士たちの手によって運ばれていく。


 背後ではエルネスタが、騎士たちに、


「彼らの処遇はこちらで決めます。護衛の者以外は後宮へ戻ってください」


 と指示を出していた。

 それを聞きながら、俺はユキの頭を撫でる。


「いろいろ大変だったね。もちろん、だからと言って君たちが悪事を働いたのは事実。それは償わなきゃいけない罪だ」


 これを許せば、彼らにとってもいい結果にはならない。

 かと言って不遇な日々を過ごしてきた彼らに、処刑を言い渡すにはあまりにも酷だ。


 後宮にいき、皇帝にこのことを伝えれば、間違いなく彼らは処刑される。今回の事件は、ただの悪戯では済まないところまできていた。


 裏に怪しい組織がいるってことは、尚更ね。


 下手すると皇族の身に何かが起きていた可能性すらある。

 その罪は、極刑以外のなにものでもない。


 それを理解しているのだろう。ユキはどこか諦めた表情で。兄の少年も、悔しそうに涙を流していた。


 エルネスタが話を終わらせてこちらに合流してくる。


「ユークリウス様。あとはその子たちだけです」

「了解。じゃあ君たちには、ひとまず後宮へ来てもらおうか。そこで沙汰を下す」

「……はい」


 ユキも少年も力なく答えた。

 俺はユキを抱き上げたまま、少年を連れて後宮へ戻る。


 向かった先は、皇帝陛下の部屋——ではなく、エルネスタと俺の部屋だった。











「好きなところにかけるといい。ユキ、君はベッドだ」


 エルネスタの部屋に着いて早々、俺は痺れさせてしまったユキをベッドに寝かせる。


 重症具合で言えば少年のほうが深刻だが、外傷は治癒系の魔法道具があるのでそれで治す。

 ユキは俺自身が体を痺れさせちゃったからね。少しだけ負い目を感じている。


「さて……ここに来てもらったのは、分かってると思うけど、君たちに罰を与えるためだ」


 椅子に座った少年の対面に俺とエルネスタも座る。

 やや高圧的になるが、構わず話を続ける。


「道中、いろいろあって悩んだけど……俺が君たちに貸すのは——労働の罰」

「え?」


 俺の言葉を聞いて、少年は下げていた視線を上げた。

 ベッドに寝転がるユキも、呆然とした声を上げる。


「ど、どういう……こと、ですか?」


 二人の反応を見て、俺はにやりと笑った。

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