少女・愛人・文化祭
黒銘菓(クロメイカ/kuromeika)
第1話
今日はその当日。私達のクラスの催し物は演劇。
「さぁ
体育館裏、私にスマホを向けるのは放送部の
製作記録係の彼と監督の私は本番にやる事がない。
「劇作家兼監督の
「OK!
にしても、あんなの考え付くなんて凄いね。」
鏡から純粋な目を向けられて私は少しだけ動きが止まった。
「まぁね。お子様の鏡と大人の私じゃ経験値が違うんだよ。」
体育館の裏手の扉を開けて舞台裏へと歩いて行った。
髪結高校の教師
舞台上には自慢の教え子達。
練習の時は『内緒』と蚊帳の外にされ、彼女に台本を見せて貰っただけ。
内容は実に
「先生が好きなの。
貴方にとっては患者の一人で子ども。
でも私にはたった一人。親も友達も本当の自分を理解してくれない中で認めてくれた、救ってくれた、たった一人なの。
私は、貴方を愛しているの。これは嘘でも遊びでもないの。貴方じゃなきゃ駄目なの!」
『誰も少女の愛を知らない』
孤独でないフリをして、人に合わせて生きていた少女が病気で倒れ、既婚者の担当医師に恋をして、二人が堕ちていく話。
舞台の上では今、医師が少女との関係を終わらせようとしている。
少女は決して譲らなかった。
その劇は見せて貰った台本とは似ても似つかなかった。
少女の台詞は最近聞いたばかりのものだった。
「最近の高校生って凄いのね」
隣で妻はすっかり魅了されていた。
元々病弱だった彼女は文化祭を体験した事が無く、渡した招待状を毎日の様に眺めていた。
そして、妻は今も何も知らずに劇を劇として楽しんでいた。
私は結局劇を最後まで楽しめぬまま、閉幕していった。。
《簪祭終了後》
劇は大成功。片付けをしながら皆騒いでいた。
そんな中、人気の無い校舎の片隅で。
「あの劇はどういう事だ?」
先生が怒ってた。
「私の気持ちですよ。
私は番先生が大好き。その気持ちを台本にしました」
私は、多分笑ってる。
自分の気持ちをこうして形にする事が、こうして愛しい人に伝わった事が、真剣な眼を向けられている事が堪らなく嬉しい。
「兎に角、君は生徒で僕は教師。
これまでもこれからもそれだけだ」
逃げる様にそれだけ言って、先生は去っていった。
私はその姿をただ見送った。
「絶対に、だめ」
その言葉は誰にも届かない
少女・愛人・文化祭 黒銘菓(クロメイカ/kuromeika) @kuromeika
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