じっかんじゅうにし猫と熊
磨糠 羽丹王
『じっかんじゅうにし猫と熊』
遥か彼方のご近所にあります神様のお住まいの隣の集会所は大わらわでございます。
神様の御前には、見知った
それもそのはず。神様から届いたお手紙には『今夜決定!
急な連絡に現十二支の皆々は慌てて腰を浮かせましたが『開催は来月の一日ね!』と二枚目に書いて有り、ホッと胸を撫でおろしたのでございました。
ところが、考えることは皆同じでございまして、また今回も到着順に決まるのではないかと急いで神様の元へと
果たして干支を巡る物語の行方は……。
先ずは『
そうなると余裕の『
次は『虎は千里往って千里還る』のことわざ通り『
こうなると真にダークホースとなる『
マイペースで目的地に向かう『
そして『
『
『
『
結局「俺不利じゃね? 俺滅茶苦茶不利じゃね?」を連呼しながら地面を這っていた『
そう、この時を
────なお、この物語は猫様最大の支援団体でございますNNN(ねこねこネットワーク)の提供でお送りいたして……いえ、何でもございません。
さてさて、前置きはこの辺に致しまして。
朱塗りで豪華な金装飾が施されている
銀色に輝く白髪に地面につきそうな
「流石は神様。
手揉みをしながら神様の御前に進み出たのは、絶対に干支の一番手を譲りたくないネズミでございました。
歯の浮くような言葉を並べたて、神様の
「これこれ、ネズミよ。ジジイを麗しいなどと褒めても、何にもならぬぞ」
神様は呆れ顔で横たわるネズミを眺めておいでです。
会場に集まった動物たちも、あからさまなおべんちゃらにドン引きでございました。
「
このネズミの行動にいち早く反応したのは、やはり積年の恨みを抱えた猫たちでございました。
今にも飛び掛かりそうな構えで、
「さて、皆の者よ。今日集まって貰ったのは他でもない」
神様が言葉を発せられると瞬時に会場が静まり返ります。皆神様の
「現行の干支制度についてじゃが、変更を検討せねばならなくてのう。その件で皆から意見が欲しくてな」
「へ、変更でございますか……」
「おおっ遂にこの日が来た!」
現十二支から
「これこれ、騒ぐでない。決まった訳ではないぞ。先ずは意見が欲しくてのう」
「神様、具体的にはどの様な」
「実はのう、干支制度の
「版元?」
「そうじゃ。版元から『パンダを入れて欲しいアル、いや入れるアルよ』との依頼があったのじゃ」
「な、ぱ、パンダですと」
パンダという言葉がさざ波の如く会場全体へと広がって行きます。
『版元』と『パンダ』というパワーワードに、
「そこでじゃ! 先ずは現行十二支との交代について考えたい」
「なんと……」
神様の提言に現行十二支の面々から溜息が漏れます。
「だ、誰と交代なのですか」
「ふむ、そこなのじゃ……。誰が良いのか皆からの意見が欲しくてのう」
神様は迷っている雰囲気を醸し出しながら、ある御方にチラチラと視線を投げかけておいででございました。
その視線の先では、普段よりも更に真っ青な御方が絶望の眼差しを
「……俺だよな……現実的に考えて俺だよな……チートだから姿を見せちゃいけないとか……端っから負け戦なんだよなぁ……」
ブツブツと独り言を
これまでも『チートだ』『現実に居ないくせに』『想像上の生き物枠とか要る?』など散々言われ続けた結果、すっかり自信を無くし
「神様お待ちください!」
皆が『あー、もうこれ決定だねぇ』と思っていた矢先、血相を変えて歩み出た者がおりました。
その者とは、虎の様に鋭い眼光、虎柄のマスク、虎柄のしなやかな肢体、虎柄の長い尻尾……虎でございます。
「我と龍が居てこそではございませんか!
そんな中、突如心地良い澄んだ声が響き渡ったのです。
「龍虎が縁起物って、それってあなたの感想ですよね? 干支関係ないし」
「何だと……誰だ」
虎が声の主を怒りの表情で
「そもそも、十二支の中であなた方はちょっとおかしいでしょう」
虎の睨みに
ピンと起った耳、宝石の如く輝く瞳、上品な口元に漂う色気。
そして、純白の毛皮に黒と茶の文様……三毛猫のミケちゃんでした。
「無礼な。何がおかしいのだこのチビ助めが!」
「ふんっ! 偉そうに」
牙を
「痛っ」
「そこで黙って聴いてなさい!」
素早く繰り出された猫パンチ。鼻先に一発食らった虎は驚いて目をパチクリさせています。
「神様! この二種類の干支動物をおかしいとは思われませんでしたか?」
「おおう、どういう事じゃ。言ってみよ」
「他の十支動物は……」
「十支動物は?」
「同種の様々な者たちの総称でございましょう」
ミケちゃんの発言に皆が首を傾げています。どういう事なのでしょう。
「! おお、確かにそうじゃ!」
云われた事をしばらく考えていた神様の頭上に『!』マークが付きました。
他の動物たちも、考えた末に『!』マークが付いております。
ミケちゃんが指摘した通り、十支の動物たちは多種多様な同種の者達の一般的な呼び名でございます。ところが、虎と龍は特定の品種の名称ではありませんか。
ミケちゃんが虎を指差しながら胸を張りました。クリティカルな一言が飛び出しそうです。
「あんた猫じゃん」
雷に撃たれた様な衝撃で、虎は口をパクパクさせております。
神様の頭上には、更に『!!』マークが上がりました。これは凄い発見かも知れません。
「神様、提案がございます!」
「おお、なんじゃ」
打ちひしがれている虎を横目に、ミケちゃんが神様の方を向き直り、鋭い視線のまま語り掛けました。
「長年にわたり十二支として尽くしてこられた龍殿には申し訳ありませんが、そもそも各所で『
「うむ……」
「そして、干支制定時より間違った呼ばれ方をして来た『虎』を『猫』に名称変更なさいませ!」
ぐうの音もでないミケちゃんの指摘に、神様も周りの者達も何も反論が出来ません。
その様子を満足そうに見渡していたミケちゃんが、更に言葉を重ねました。
「神様、龍と交代する『パンダ』の事ですが」
「うむ」
「表記をどうなされますか?」
「表記じゃと?」
「ええ。パンダは漢字で『大熊猫』でございましょう」
「うむ」
「では『熊猫』がベストチョイスではございませんか」
「熊猫か……」
「ええ、三文字は多すぎますし『熊』一文字ではわざわざパンダを指名された版元の意向にそぐわないかと存じます。それに『熊猫』であれば『小熊猫』のレッサーパンダも含まれるのですよ」
「おおぉ、それは愛らしいのう。熊猫良いのう」
まんざらでもない神様の反応を確かめたミケちゃんの瞳がキラリと輝き、周りで見守る猫たちの口の端に笑みが浮かびました。いよいよ『猫』の十二支入りが確定しそうです。
「では、神様。これより十二支は……
顔真っ青の龍と虎を除く動物たちも納得の様子。
十二支に『猫』を二回も差し込む事に成功しそうな猫たちが小躍りをし始めました。いよいよ時代が動く時が迫って来た様で御座います。
「異議あり!」
その時でした、皆の前に白衣を着て眼鏡を掛けたイケボ・イケメンのネズミが歩み出たのです。インテリ風のネズミ。何事でしょう。
「なんにゃお前は! 喰い殺した上で、干支も他の動物に交代させてやろうか!」
干支入り決定間際の異議に猫たちがいきり立ちます。
「言っておくけれど、お前の代わりは幾らでも候補が居るんだぞ! 海の動物たちの
「うっ……」
猫たちの指摘に思わず
事の初めに干支を決める際、最初の集合場所を陸地にした時点で、クジラやアシカ達など海獣の可能性を失わせていた事に千年後くらいに気が付いた様で御座います。
「ね、ネズミよ……申してみよ」
神様はこれは不味いとばかりに、賢そうなネズミに発言を求めました。
イケメンネズミは口角を上げながら頷くと、集会所の黒板に向かいます。
そして、しばらくの間「ふむふむ」と呟きつつ数式の様な物を書き連ね、突然「よし」と言い振り向きました。
「そもそも干支の意味をご存じかな」
イケボ・イケメンのネズミは眼鏡の縁を押し上げながら、実に面白そうに話し始めました。
『干支の意味』という思わぬ発言に、他の動物たちがザワつきます。
「干支とは、そもそも
「
ネズミの話はまだまだ続きます。
「皆さん、夜中の二時頃を指す『
「おおー、確かに」
「他にも……更に……代えがたきもの……しかるに……」
語り続けるネズミを横目に、神様はスマホを取り出してニヤニヤしておいでです。
そうでした、神様は
「神様! 何をしておいでなのですか!」
話を聞かない神様の姿に、ネズミが不満気に語り掛けます。
「ん……話は終わったか?」
「いえ、私がこの様な大事な話をしている時に、何をしておられるのか聞いているのです」
「おお、そうか。これじゃ」
満面の笑みを浮かべる神様が皆に画面を向けると、そこには大きく口を開いた白い
「可愛いじゃろう? 儂の『
「神様……」
素晴らしい知識を披露し鼻高々になっていた所を、無敵の笑顔で荒らす神様。ネズミは思わず言葉を失ってしまいました。
「ふむ、ネズミよ。話はまだ続くのか?」
「もちろんでございます。まだ半分ほども話しておりません」
「ふーむ。ちょっと時間が掛かり過ぎた様じゃ。お腹も空いたし、今日はお開きにしようかのう」
「えっ?」
「ちょ、神様まだ結論が!」
顔を白黒させているネズミと猫を横目に、危うく立場を失いかけた龍と虎が目を輝かせております。
「賛成だ!」
「よし、帰ろう!」
「はーい」
皆に手を振る神様のお姿を確認すると、嬉しそうな龍と虎を先頭に動物たちが一斉に帰って行きました。
「ちょ、ちょ、ちょっとーーーーー! 神様! これは酷いじゃないですか!」
会場に置いてきぼりになってしまった猫たち。
「で、では、私たちもこれにて」
会場に猫と自分達しか残っていない事に気が付いたネズミが、命の危機を感じ慌てて逃げ出しました。
「おのれー、このドブネズミめ! お前らのせいで!」
あり得ない展開に呆然としていた猫たちも、我に返り
板張りの質素な
「ふむ。皆帰った様じゃな。儂も帰ると致そう」
皆を見送った神様は、美しきライティングの
ですが、その後ろをコッソリと付いて行く者の姿が……。
「ふう。危ういところじゃった……」
神様は傍目には幾重にも着込んでいる様に見えた真珠色の衣を、マジックテープを外しサッとお脱ぎになられました。
それどころか、白髪や長い髭が神々しい雰囲気を醸し出していたお顔をスッポリとお脱ぎになられたのです。なんと神様のお顔は被り物。
誰も気が付いていなかった『神々しきジジイ』の変装を解かれると、神様は心地よさそうに
「干支に入るなど面倒な事この上ないのじゃ。
毛足の長いふっかふかの敷物に横たわる神様。
ご尊顔はと申しますと、大きくピンと起った耳、宝玉の如く輝く瞳、麗しき口元に漂う高貴な色気……。そう、そのお姿は、
女神であるバステトは、後のギリシャ人により美しさと愛の女神である『アフロディーテ』や『ヴィーナス』などと同一視される程の麗しさ。
そう、バステト神とは気高く美しき『猫』のお姿をされた尊き神様なのでございます。
何と言う事でございましょう。干支制度を
「!」
神様の後をコッソリ付いて来て寝所を覗いていた者が驚きの表情を見せております。
そして全てを悟った、この物語の『
「増やすも減らすも交代させるも面倒なのじゃ。この件の続きは……また来年じゃな」
まだまだ語り尽くせぬところでございますが、これにて一巻の終わり。
作:磨糠 羽丹王(まぬか はにお)
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※ちょっと細かい知識の参照:ウィキペディア(Wikipedia)サイト様
※同一種族……ウサギは?って あ、うん、分かってた……可愛いから干支から外さなくて良いでしょう(汗
じっかんじゅうにし猫と熊 磨糠 羽丹王 @manukahanio
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