辛く悲しい記憶は誰にも言えず心の奥底に閉じ込められたままだった年月が経っても忘れることができなかったことを彼は話してみた……物語の結末に心が癒される何かとややこしくて面倒だけれど家族っていいなと思える
新年に酒を酌み交わす主人公とその妻の父。静かな正月の風景がしみじみと綴られるなか、義父が今まで口にすることのなかったひとつの戦争の記憶が重ねられます。そして忘れられないあるひと言。その言葉は新しい年を迎えるにあたってきっと誰しもが一番願うことではないでしょうか。ほぼ男二人の会話で話が進みますが、その中に主人公の家族や義父の亡き妻の人間像も浮かび上がります。穏やかな語りの裏に普遍的な願いを込めた、新年にふさわしい一作です。