クリスマス・レレ・オンリー

生來 哲学

クリスマス割引

 雪が綺麗な夜だった。

 街は騒音に満ちていたが不思議と静寂に感じた。

 俺には何もない。

 予定も、友人も、ついでに学歴もない。

 せわしなく街を歩く人々をよそに俺はただ薄灯りに降りしきる夜を見つめている。

 他の誰もが――いや、ふと視線を下ろすと猫耳のヘッドホンをした一人の少女がむすっとした顔で座っていた。 ここは駅前広場であり、由来の知れないモニュメントと幾つかのベンチがあり、よく恋人たちの待ち合わせなどに使われる。しかし、こんな寒空の中ベンチに座っているのは俺とその少女だけだった。

 肩に軽く雪を積もらせながら彼女はずっと自分の足下を見つめている。ただ俺と違うのは空虚に見つめるのではなく、烈火のごとき怒りと共に地面を睨んでいる。

 その姿がなんだかおかしくて俺は思わず吹き出した。

 途端、地面を見つめていた彼女の顔がガバッと上がり、にやついていた俺と視線が合った。即座に目線を逸らすがもう遅い。

 彼女が立ち上がると共に肩に積もっていた雪が落ちる。

 そしてつかつかと怒りを全身ににじませながらこちらへと歩いてきた。

「何がおかしいの」

 ただ静かに彼女は問いかけた。怒り心頭であるが、彼女は冷静だった。まるで氷の槍を突き刺すかのような、鋭く冷たい声。

「別に」

「今、笑ったでしょ。私のこと」

 俺の誤魔化しを介さず彼女は断定してくる。

「悪かった。君を笑ってしまった」

 ぺこりと頭を下げたがそれが逆に気にくわなかったらしい。更に声が冷たくなる。

「はぁ? 謝ったら許されると思ってるの?」

「じゃあどうしたら許してくれるんだ?」

 一瞬、彼女がキョトンとする。予想外の返しだったらしい。

「……許すはずがないじゃない。絶対に」

「そっか。じゃあ謝らない」

「はあ?」

「許してくれないのに、謝る意味などどこにある?」

「謝るってそういうことじゃないでしょ?」

 困惑の方が勝ったのか彼女の顔からすっかり怒気が失せる。

「別に。これからの生涯、俺は君に恨まれながら生きていくことにするよ。これからも俺に怒り続けてくれ」

「ああもう、何もそこまで言ってないでしょ! ああもう分かった。分かりました。許します。ゆーるーしーまーす。これでいいでしょ」

「ありがとう。すっきりした。じゃあ俺はこれで」

 と、きびすを返したところでがしりと手を捕まれる。

「待って。やっぱり許さない」

 流石に勢いで誤魔化しきれなかったか、と思うが顔には出さず笑う。

「じゃあどうする? 殴り合いの決闘でもするのか?」

 少女の顔を見上げながら俺は言う。おそらく高校生らしき少女だが、浪人生の俺よりも首一つ分くらい背が高い。リアルファイトなら彼女に分があるかも知れない。

「そんな年末みたいなことしないっての。いや、年末なのに間違いはないけど」

 駅前広場にある街頭モニターから鈴の音とともに「今日はクリスマス! 特別な二人のための特別なキャンペーン!」とCMが流れてくる。それを聞いた途端、彼女は黙り込む。話していくうちにちょっと柔らかくなっていた彼女の顔が再び険しくなった。

「立ち話もなんだ。そこの喫茶店にでも行くか? 今日ならカップル割らしいぞ」

 挑発のつもりで軽口を叩く。これで怒りが爆発して去ってくれるといいのだけど。

「行く」

「へ?」

「行くって言ってるの。早く連れて行くなさいよ。そのカップル割に」

「オーケイ。でもお代は割り勘でよろしく」

「奢りなさいよ、甲斐性なし」

「いいね。とても元気だ。仕方ないから奢ってあげよう」

「その上から目線やめてよ。下から見上げてる癖に」

「小さいから気持ちは大きく持ってるんだよ」

 などと口喧嘩を愉しんでるうちに目当ての喫茶店に辿り着く。

「いらっしゃ……いませ」

 笑顔で出てきた店員の顔が即座に引きつる。なにせ隣に居る少女が明らかに怒りに満ちているからだ。

「カップル割で席一つ空いてます?」

「空いて――ます。どうぞこちらへ」

 店員からやっかいな客だし追い払いたいな、て気持ちが顔に出ていたが最終的に商魂が勝ったのか店員は俺たちを中に招いた。中に入ると悲しいほどに店はガラガラだった。

「表にあったカップル割のヤツと……何か彼女の機嫌を直せそうなサービスをお願いします」

「かぁ……し、こまり、ました」

 店員は青ざめた顔しつつも無理矢理笑顔を作りながら死んだ目で俺の方を睨んできた。無茶ぶりしやがって、と視線で抗議をしてくるが俺は無視して少女に向き直る。

「ほら、店員さんが素敵なサービスを用意してくれる、て言ってるんだ。そろそろ機嫌を直したらどうだ?」

「はぁ? 別に私はあんたとカップルじゃないし。第一、そういうのはシークレットで頼んでおきなさい。なってないわ」

「と言う訳で、サプライズになるヤツをお願い」

 店員は無言ですすすっと店の奥へと去って行った。

 奥から店長らしき男性のなんだそりゃー、みたいな叫び声が聞こえた。

「あーあ、かわいそうに。あんたのせいで店員さん困ってるじゃない」

「そうか? いい暇つぶしが出来て店員さんもよかっただろうさ」

「最低ね。人に無茶ぷりをする人間なんて」

 次々と出てくる行儀の悪い言葉がとても元気がいい。向かい合って座っても、やはり視線は彼女の方が上だった。座高でも負けている。

 そんな彼女を下から見上げつつ、俺は出されていた水に軽く口をつけ、間を取る。

「広場では誰と待ち合わせしてたの?」

「あんたに言う必要ある?」

「さあ? 世間話だよ。それとも俺の好きな食べ物の話でも聞――?」

「待ち合わせてたのは、友達よ。親友って言っていいくらい仲のよかった」

「仲のよかった?」

「クリスマスに」

「うん」

「恋人が出来なかったらみんなあの広場で待ち合わせようね、て約束してたの」

「……なるほど」

「昨日まで三人とも、結局恋人出来なかったね、てスマホでやりとりしてたの。寝る前も明日の答え合わせが楽しみだね、てメッセージしあってたの」

「……なぁるほど」

「で、さっき、友人二人から彼氏が出来たからいけない、て写真付きで連絡が来たわ」

 ぐしゃりと彼女は紙おしぼりを握りしめる。

「その後に、《ホントはレレも恋人いない振りしてただけでしょ》《だよね。もういい加減居ない振りしなくていいよ》て二人から、……ね」

 前から二人ともいない振りしてただけだったらしい。

「お疲れ様」

「なぁにがお疲れ様よ! あんたに私の気持ちが分かる?」

「分かるって言ったら怒るだろ?」

「いや、そこは嘘でも分かる、て言っておきなさいよ。気が利かないわね。会話のキャッチボールの基本でしょ。まずは共感から入りなさい。女子はみんな相手が悪いって思ってても分かるー、辛かったよねー、て上っ面だけでも取り繕って会話のエンジンを回していくのよ」

「分かるー、辛かったよねー」

「多少のアレンジくらいしなさいよっ!」

 憤慨する彼女に俺は思わずケタケタと笑う。

「元気がいいなぁ。そんなに色恋沙汰にエネルギーを回せるなんてうらやましい」

「は? 女の子と言ったら恋のために生きてるのよ。恋をしなきゃダメでしょ」

「女の子は大変だねぇ」

「なによその他人事。男だってなんだかんだ恋愛するものでしょ」

「世間ではそうかも知れない。俺はなんて言うか、嫌われ者でね。惚れたはれたなんてこととはとんと縁がなくて、よく分からないな」

「はーん。まあ確かに言動の一つ一つがどこか鼻につくわねあんた」

「お気づきになったかい」

「それ。上から目線やめなさい。背が低いくせに、無駄に達観した風の、上から目線は嫌われるわよ」

「ああ、だから嫌われてる」

「直しなさいって言ってるの」

「難しいことを言うね。そんなに人から好かれることが大事か?」

「大事よ。……その、ともかく大事よ」

 勢いで言ったものの、言語化は出来てないらしい。

「まあ、他人にある程度合わせることももちろん大事だけど、俺はその協調性のラインを他よりは低めに設定してある」

「なんでそんな嫌われることを」

「疲れるからさ。俺は人より心の体力が少なめらしいからあんまり他人に合わせすぎるとすぐ一杯一杯になる。だから、ほどほどに抑えておく」

「はぁ……だからあんたは何事も他人事なのね。ダメよ。ダメダメ。そんなのは」

「まあ、だから今日は君に合わせてあげてるだろう」

「……え?」

 それまで訳知り顔で切れていた彼女がはぁ? と虚を突かれた顔をする。

「いつもの俺なら駅前の公園で強引に帰ってたよ。でも、君がどうしてもとせがむから時間を取ってあげたんだ」

「ちょ、私のせいにするつもり?」

「ああ、全部君のせいだよ」

 少女は目を瞬かせてぽかんとする。色々と予想外だったらしい。

「全部。君のせいだよ、わがまま姫さん」

「別に私はお姫様じゃないわ」

「なら女王様なのかい?」

「それはなんというか……ただの女子高生よ。どこにでもいる、ただの――」

「ただの女子高生はクリスマスでよく知らない男と夜を過ごすこともないさ」

「バーカ、恋人気取りをやめなさい」

「逆だろう。今は恋人の振りをしておくのが正解じゃないのか?」

 俺の言葉に彼女はそれはー、それはそうかもぉ、と頭をぐりんぐりんに回す。それを見てるだけで楽しい。

「クリスマススペシャルケーキお持ちしました」

 彼女が考え込んだところですっ、とウェイトレスさんが入ってきてケーキとシャンメリーを置いていく。

「あと、こちらはサービスです」

 と包装された小箱を俺に渡してくる。

「いや、俺じゃなくて彼女に――」

「どうか、プレゼントしてあげてください。あと一押しですよ」

 ウェイトレスは耳元でささやき、軽く俺の肩を叩いて去って行く。入った時の戦々恐々状態はどこへいったのか後方腕組み友人みたいな仕草で去って行くウェイトレス。

「……ふぅん」

 俺は手元の小箱をどうしたものかと見つめる。視線をずらすと対面の少女もじっとプレゼントを見つめていた。そして、俺と視線が合う。不思議と、互いにどうすべきか分かってしまった。

「メリークリスマス、レレちゃん」

「ありがとう、お兄さん」

 差し出した小箱を少女が満面の笑みを浮かべて受け取る。あまりにもわざとらしい仕草。受け渡した途端に互いに笑ってしまった。

「きざな仕草が似合わないわね、あんた」

「逆に君はめちゃくちゃ似合ってたよ。どこの美少女かと思った」

「当ったり前でしょ。私は美少女に決まってるじゃない」

「いいねえ。それでこそレレちゃんだ」

「……あれ? 私、あんたにあだ名を話したっけ?」

「幼なじみからのメールの下りであったよ。どういう由来?」

 言われて彼女はふっと遠い目をした後、微笑んだ・

「西暮礼奈<ニシグレレイナ>の真ん中を取ってレレちゃん」

「めちゃくちゃカワイイあだ名だね」

「知ってる」

 彼女は上機嫌に笑いながらクリスマス包装された小箱を開けた。今居る喫茶店のロゴの入ったマグカップだった。

「やった。結構かわいい」

「レレちゃんの機嫌が直ってよかった」

「ちょっと、なんか知らないけど調子乗ってない?」

「じゃ、レレちゃんて呼ぶのやめようか?」

「やめるの禁止で~す」

 彼女は楽しそうに笑いながらマグカップを小箱に戻し、外した包装を綺麗に折りたたんで自分の鞄の中に入れた。

「じゃ、これ。お兄さんに」

「お、何かな」

 赤と緑の包装された小箱を開けると中から淡いピンク色のハンカチだった。隅にかわいらしい雪だるまの刺繍がされている。おそらく幼なじみの女の子達でプレゼント交換する予定だったのだろう。

「こんな可愛らしい女物のハンカチを持ってたら彼女がいるってバレてしまう」

「バレちゃえバレちゃえ。かわいいレレちゃんがいるってね」

 すっかり機嫌が直ったらしい彼女はいつの間にか先ほど運ばれてきたクリスマススペシャルケーキを手際よく四つに切り分けて小皿に渡してきた。

「はい、お兄さん」

「サンキュー、レレちゃん」

「もうあんたレレちゃんて言いたいだけじゃない」

「バレたか。やめようか?」

「やめるの禁止で~す」

 もしかしなくてもこの少女、かなりかわいいヤツなのかも知れない。

「あ、シャンメリー開けてくれる?」

「ほいきた」

 ケーキと一緒に運ばれてたシャンメリーの栓を多少苦労しながら俺はなんとか開ける。

「んぎぎっ、とあいた」

「不器用さんね」

「ああ、不器用だから今夜レレちゃんの隣に居るんだよ」

「なら不器用でよかったわね。今楽しいもの」

「確かに、不器用で正解だった」

 俺は笑いながらガラスコップにとぷとぷとシャンメリーを注ぐ。

「あーあーあー、注ぎすぎ。こぼれるギリギリを狙わなくていいでしょ」

「いやちょっと、限界に挑戦したくなって」

「急にチャレンジャー精神を見せないで!」

 仕方ないのでこぼれないように小さく入れたコップを彼女に渡す。

「ほい、こっちはレレちゃんの」

「少なくない?」

「こっちはこぼれるだろ?」

「だからってこれは安全圏狙いすぎでしょ! 後少し真心を付け足しなさい」

「ほいっ、真心」

「まさかの交換。これが本当の逆転の発想」

「レレちゃんはノリがいいなぁ」

「そういやアンタの名前は?」

 今更ながらに名前を聞いてくる彼女。

「おっと、それを聞く? 友達のいなさそうな俺の名前を?」

「どういう名前よ」

「オンリー」

「え?」

 俺の本名を聞いて彼女は目をぱちくりとする。

「遠くの理、て書いて遠理<オンリー>。宵仲遠理」

「なかなか格好いい名前してるじゃない。英訳したらマーヴェリックになりそう」

「いや、どう考えてもオンリーだろ」

 そもそも、マーヴェリックは嫌われ者・はぐれ者って意味だ。

「嘘嘘。どっちかっていうとファー・ルールとか?」

「それは辺境ルールみたいでちょっと格好いいな」

「でしょー。私こういうの得意なんだ」

「よっ、レレちゃん天才!」

 そう言って俺がコップを持つと彼女もシャンメリーの溢れそうなコップを器用に持ち上げた。

「じゃ、天才のレレちゃんに」

「かっこいい、オンリーくんに」

「「メリー・クリスマス」」

 かちん、とコップが当たり、俺たちは同時にごくりとコップをあおった。ワイングラスを用意してない当たり、流石場末の喫茶店だな、と思いつつせっかく気分よくなった彼女の機嫌をそこねそうなので黙っておく。

「なんでコップなのかしら。グラスの方がいいのに」

「思った。でもここは酒場じゃなくて喫茶店だからね」

「なら仕方ないわね」

 互いの目が合い、同時に笑った。

 もしかすると彼女はいい奴なのかもしれない。

「そういや綺麗にケーキ切ったね。もしかして料理が上手かったりする?」

「もちろんっ! て言いたいところだけど普通かな。レシピ通りのものしか作れない」

「充分でしょ」

「いやー、流石に料理は上手い友達を何人か知ってるから軽々しく言えないわ」

「なら、何が得意?」

 訊ねると彼女は目を細め、ニコリとわざとらしい笑みを浮かべる。

「聞きたい?」

「ぜひ教えて欲しいね」

「歌よ」

「マジで? 歌が上手い女の子とか最高でしょ」

「でしょーーー。分かってるわねーー、とても」

 笑いながらケーキにフォークを突き刺す彼女。それに合わせて俺もケーキにフォークを刺し入れた。

 そして二人同時にケーキを口に入れる。

「うまっ」「おいしっ」

 まったく期待してなかったのだが、クリスマススペシャルケーキはその名前に恥じない確かな美味しさだった。二人してうまうまと言いながらあっという間にケーキを平らげる。

「あー食べた食べた」

「ああ、意外とよかったな」

 不意に会話が途切れる。

 なんとなく、この店を出たらこの二人の関係はこれで終わり、みたいに互いに思っていた。けれども、愚痴を聞くだけなのがいつの間にかかなり盛り上がってしまった。

 端的に言えば、名残惜しい。

「……」

「……」

 なんだか期待の篭もった目で彼女が見つめてくる。明らかに「私の欲しい答えを言いなさい」て顔だ。こんな少女と付き合うなんて、きっとこれから苦労することになる。

「この後、カラオケにでもいく?」

「五十点。やり直し」

「えー」

 俺の誘いをきっぱりと彼女は突っぱねた。お気に召さなかったらしい。なら、ここは網一歩踏み込むしかない。

「あー……」

 口にしようとすると意外と気恥ずかしくて言葉が途切れる。こんな言葉、今までの人生で初めて口にする。俺には過ぎた言葉だ。そんなに大した言葉でもないのに、声がうわずる。

「ほら、聞いてあげるから恥ずかしがらずに言ってよ」

 人ごとだと思ってとちらりと彼女を見るとびっくりするほど顔が真っ赤になっていた。そこらの酔っ払いも顔負けな赤ら顔に思わず吹き出してしまう。

「ちょ、なに笑ってんの! 違うでしょ!」

「あー、ごめんごめん」

 俺は頭を下げ、そしてなるべく気負いないそぶりで伝える。

「似合わないことはしない主義だ。やめておく」

 俺の言葉に彼女の片眉がつり上がる。

「なにそれ? ここで日和るの?」

「まだ早い。

 けど、今日は楽しい夜だ。もう一件、カラオケに付き合ってよ、レレちゃん」

 気負わない誘い文句に言葉に彼女は不服そうだった。

「ここで勢いに乗らないのがっかり」

 彼女としては自分も恋人が出来たぞ、と今すぐにも親友達に連絡をトバしたいところなのだろう。

 俺はシャンメリーの入っていたボトルを持ち上げた。一人分に少し足りないくらいだが残ってはいる。

「じゃあ、今日はここで解散かな。俺は楽しくヒトカラだ」

「ばーかね。一人だけ楽しくカラオケに行こうなんて贅沢は許さないっての。

 私もカラオケに行ってあげるわよ、オンリーくん」

 彼女の言葉に俺は思わず笑みを深めた。最後の一杯分のシャンメリーを二つのコップに半分ずつ注ぎ込む。

 俺たちの共犯関係はまだ続く。

「レレちゃんはあまのじゃくだね」

 俺がコップを持ち上げると共に彼女もコップを持ち上げた。

「オンリーくんほどじゃありませ~ん」

「違いない」

 コップを差し出す。

「あまのじゃくな女友達との楽しいクリスマスに」

「屁理屈な男友達との楽しいクリスマスに」

「「乾杯」」

 かつん、と俺たちのコップが子供じみたキスをし、同時に二人は半分しかないシャンメリーをあっさりと飲み干した。

 コップを置くと彼女と目が合う。互いに物足りない、て感じの顔をしていた。

「じゃ、次の店に行こう」

「オッケー、私の美声に惚れさせてあげる」

「そりゃ楽しみだ」

 かくて俺たちはなんだかんだとクリスマスの夜の街へと繰り出すのだった。



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