2月
@kaizjony
第1話
無理をするなと笑われても僕はくそ真面目な木偶の仏像みたいにただ黙々と目の前の薪を割って割って割って、そしてたまに空を見上げて、また割って割って割って割って、そうやって暮らしていた。太陽は僕の頭の上をナンビャッカイも通り過ぎた。朽ちた草を食べて吐いてそれを掃除するのが僕の趣味だった。隕石みたいな体の虫がある日、僕の鼻の穴の中に入り込んで苦しくて、その時島を出ることを思い付いた。海を歩いて途中でこけてそれでも歩いてとうとう島を出た。港にある高くてストローみたいな棒切れの上によじ登った。ずっとそこにいた。眠くても右耳を頬にくっつけてそのまま逆立ちをし続けて気づいたら3ヶ月が経っていた。その3ヶ月目の朝に僕はぶっ倒れてそれから島に戻って大きく深呼吸をして、で、寝た。起きたらグラタンを食ってそして座り込んでグラタンがけつの穴から出てくるのを待った。グラタンはとうとう出てこなかった。僕は島を去った。鯨がいた。鯨の目ん玉をちょうつがいの黒く尖ったところで刺した。鯨は暴れて、僕を殴った。殴られたからには鯨を殺すしかなかった。しかし、僕には鯨を殺す方法が全く思い付かなかった。今の僕には鯨を殺せない。僕は旅に出ることにした。ワカメで作ったリュックサックを担いでカラス貝で方位磁針を作りモータボートに乗り込んで富士山を見に行った。富士の館で体のすごく小さな武士に出会った。武士は僕にお前の得意な舞踏は何かと聞いた。そんなものは知らなかった。紅のカラスに武士の末裔を紹介してもらった。武士は武士の末裔のことを想っていた。二人が結ばれればいいと思った。眠気の中に小さくてささやかな絶望を見いだしてそれから僕は踊り出した。これが僕の舞踏だと思った。』
「面白いね」
「そうかな」
「うんとっても」
「訳が分からないだろ」
「うんとっても」
「こんなのゴミだよ」
「そうかな」
「ゴミだよゴミ」
「私は好きだけどな」
「どこがよ」
「グラタンのところとか特に」
「お前頭おかしいだろ」
「あなたが作者よ」
「俺は頭おかしいよ」
「そうね」
俺は息を吸った。
ため息は吸うものだ。
文句があるならため息を吐いて吐いて吐きまくって窒息死してしまえ。
俺は小説家で、この女は俺の友達で、俺は訳の分からない小説を書いていて、この女は俺のその狂気を気に入っている。
俺は煙草の先を畳に擦り付けた。
座布団に鼻を押し付けてクンクンと匂った。
鯨の臭いがした。
豚肉が食べたくなった。
俺は立ち上がり高く跳び跳ねた。
「豚肉ーーーーーー」
もっと高く
「俺の豚肉ーーーーーーー」
高く高く高く高く高く高く高く
「豚肉ーーーーーーーーーーーー俺のーーーーーーーー!ー、ーー!、ーーーー」
くそ寒いおんぼろ小屋の二階の一室で、俺は狂気を叫び、女は寝転がって楽しそうにそれを見つめている。
2月。
これは俺の2月だ。
2月 @kaizjony
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