星だったお母さんはいつか、生まれ変わるのかな

神永 遙麦

第1話

 と、ある名も無き星と人間との間の一人子。それが私。


 星だったお母さんは、弟が生まれた時に死んだ。弟も1週間だけ生きて死んだ。そのショックなのかお父さんとは、6歳だった私をおばあちゃんに預けたっきり、お正月に会うか会わないか……。

 おばあちゃんによると、お父さんは出張に次ぐ出張で忙しいらしい。でもおじいちゃんはお父さんのことを「こんなにも可愛いちびっこを捨てた愚息」と呼んでいる。


 お母さんのことはぼんやりとしか覚えていない。

 思い出せるのは目を惹きつけられるくらい美しくて、チラチラ光る白っぽい金髪をヘップバーンカットに、夜空みたいに微かに輝く瞳を持っていたこと、いつだって笑っていたこと。形容詞が多すぎるけど、まだまだ形容詞も単語も足りないくらい魅力的な人だった ——こんな言葉を実の母に対していいのか分からないけれど——。

 お母さんの人柄は覚えていない。けれどお母さんのことを思い出そうとするとあたたかな気持ちまで蘇るから、優しくて思い遣りがある人だったんだろうなぁ。


 それに対して至極お父さんはフツーの人。バイヤーやってるらしいけど。

 そりゃ今も2、3年に一回会えばお年玉をくれる優しさと愛情がある。(去年、25万円のお年玉を貰った時はびっくりした。「今度で中学生になるから必要なものを買うのに使って」って言ってたけど。)昨日なんかはエアメール(?)でクリスマスプレゼントが届いた。英英辞典とカテゴライズしたけど、たぶんイギリスで買った国語辞典だと思う。あと全ページ英語の小説。(本を読むのはそこそこ好きだけど、英語の成績は2なんだよ。)

 つまりお父さんは優しいけど、優しさが空回りする人。


 弟のことは何も知らない。名前が「ひかる」だったってことは知ってる。それから抱っこしようと思って触ったら、すごく冷たかったことを未だに鮮明に覚えている。ゾッとしてお父さんに知らせたら、血相を変えて飛んできた。



 前はもっと思い出せた。もっと思い出せた。それは知っている。だけど何を思い出せたのかを忘れてしまった。

 晃の誕生日やクリスマスが近くなると焦って思い出そうとしている。だけど思い出せることはどんどん減っていく。お母さんの声はもう思い出せない。どんな言葉を投げかけてくれたのか思い出せない。

 お父さんがお母さんを何て呼んでいたのかも思い出せない。お母さんに名前がないから愛称で呼んでいたのは覚えている。それはまだ覚えている。


 ベランダから空を見てもお母さんはいない。お母さんは流れ星としてこの星に来たから。良かった、それは思い出せた。

 お母さんは記録にも残らず、写真にも写らない。お母さんは星だったから。

 でも、もしお母さんだった星が太陽より10倍重いのなら、星は生まれ変わることができる。いつになるか分からないけど。

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星だったお母さんはいつか、生まれ変わるのかな 神永 遙麦 @hosanna_7

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