【ショートストーリー】慟哭の空の下で
藍埜佑(あいのたすく)
【ショートストーリー】慟哭の空の下で
私の最愛の人がいなくなってしまった。
あの微細なほほ笑みも、温かな眸も、指先から伝わる優しさも、死は全てを奪ってしまった。
なぜ彼女はこんなに早く死ななければならなかったのか、なぜあんなに苦しまなければならなかったのか。
彼女の痛み、死に至るまでのあの無力さ、全てを心に刻み付けながら、彼女は静かに、そして確実に私から遠ざかっていった。
愛しい人のいないこの世界に生きる意味はあるのだろうか。
愛したものすべてを奪われた私に残された生は何のためのものだろうか。
私は肩を落とし、天を仰ぎ、心の底から叫んだ、
「これ以上何のために生きねばならぬのか!」
空は静まり返り、時間が停止したかのようだ。けれども、答えは来ない。
ただ無情な風が私の頬を撫で、世界は厚かましくもその回転を止めない。
それでは私は一体どうすればいいのだろうか。
愛しい人を失い、孤独に閉ざされた世界から逃れる出口は見つからない。
しかし深く自分の内面の深淵を覗き見たとき、まるで彼女がそこにいるかのような気がした。
彼女の微笑み、彼女の言葉、彼女の優しさが私の心を満たし、押し寄せる悲しみと哀しみを緩和してくれる。この不思議な力はいったいどこからくるのだろうか。
そうだ、私の中に彼女がいる。私が生きている限り、彼女は私の記憶の中にいる。ともに生きてくれている。
私の涙は溢れ、彼女への愛しい思いが胸を充たす。
そして、彼女の言葉を思い出した。
「愛する者を失った時……それは新たな道の始まりに過ぎないの。私も大切な人を沢山失った。両親、親友、子供たち……私たちはその苦痛を通じて、自己を見つめ直し、より深い人生の深淵へと進んでいくのよ」
彼女はそのように私に語りかけてきた。
乱暴に、無慈悲に引き離された愛の喪失の痛みを抱きつつ、私は彼女の残した言葉を胸に刻み、新たなる生の旅路を……。
「ああ、愛しい人よ。あなたが私に遺してくれた愛は、絶望の闇をやぶり、新たな局面へと私を導いてくれる。あなたとの愛を糧に、私はこの世界に語るべき物語を紡いでいく。それが私の生の意味、それが、それこそが私が歩む道!」
私はそう叫びながら、空を見上げた。
慟哭の空は貪るように暗く、しかしどこかに微かに光明を予感させる。
私は一人、その空を仰ぎ、新しい命の扉を開いた。
(了)
【ショートストーリー】慟哭の空の下で 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi
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