『粉雪舞う駅のホームで』
小田舵木
『粉雪舞う駅のホームで』
寒風吹き荒ぶ駅のホーム。俺は電車を待っている。
空を見上げれば、粉雪が舞い散り。
空中で結晶の形を保つ粉雪は地面に落ちると溶けて消える。ここは九州。雪が積もるような環境ではないのだ。
俺は仕事に行くために電車を待っている。
仕事と言っても、気軽な単発バイトだ。粉雪同様、あっという間に終わる。
俺はしんしんと降る雪を眺めながら、何かを考えていた。
とりとめのない思考。行く宛のない思考。
粉雪が何かに似ているような気がしてたまらない。何だっけ?
俺はコートを貫通してくる寒風に身を震わせながら考える。
…そうだ。この雪の降る様が人生に似ているような気がしたのだ。
天から舞い落ち、地面に落ちて溶ける。
俺達は母親の性器から生まれて来たが、少し宗教的な見方をすれば天から産まれ、地に消える。
…なんて。出勤前になんでこんなにアンニュイな気持ちにならなくてはいけないのだろう。
だが、電車待ちの時間ってどうにも思考が明後日の方に行きがちなのである。
なんで生きてるんだろうな?俺。
思考はそっちの方向に飛び火し。思考の沼に落ち込んでいく。
死ぬ機会はいくらでもあった。まずは20の頃。引きこもりをしていたあの頃。
だが、死ぬことなんか出来ずに。なんとなく人生を送り、社会に出、そして今や立派な負け組である。
「俺は人生上がってしまってるから」俺はある日の電話で友人にそう告げ。
「お前が言うな。俺が言うなら分かるが」と突っ込みをもらった。ちなみに友人の方が年上である。
俺の人生の行く先に希望などない。なにせ、うつ持ちのデブのおっさんである。
まだ31だが。もう31でもある。少し時代が違えば立派な壮年であったはずだ。
だが、俺は。まだ18の頃の精神を背負っている。変わったのは諦念を持つようになった事。
諦念に満たされた人生は暗い。
かつては遠くを眺めて人生を送っていたが、今や足元しか見ていない。
未来が楽しみな年齢は終わってしまった。
このような負け組のやる気のないヤツは。淘汰されてしかるべきである。
しかし、今の時代は気軽に俺を殺してくれない。生殺しみたいに生き長らえさせる。それは俺が国にとって貴重な税源だからである。だから死なない程度には保護してくれる。
いっその事。誰かに襲われて死にたい気持ちはある。
俺の人生なんて、他人の養分になるのがお似合いなのだ。
淘汰されて然る遺伝子のキャリア。それが俺だ。
生優しい他人共は俺に生きる価値はあると言うが。その言葉の無責任さよ。
ただ。自分が不愉快な死体を見たくないが故に、俺に優しくする。俺はそう思い込んでいて、その思考は頭から離れない。
こんな人生を選んだ阿呆は何処の馬鹿か?俺だ。問うまでもない。
俺は底抜けの阿呆だった。なんとなしに自分に価値があると思い込んできた。
だが。自分の価値を高める努力をしなかった。その結果が今で。
寒風吹き荒ぶホーム。俺の頭に凍死が過ぎる。
俺は。一度真冬の北海道に行った事があるが。それは半ば死ぬ為だった。
真冬の北海道の路上で、酒を喰らって寝て、凍死を狙っていたのである。
その計画は実行される事はなかった。真冬の札幌の路上に降り立った瞬間、俺はホテルを探していた。寒さに折れた訳だ。
俺は死にたがっているが。どうにも実行力が足りていない。
俺の知り合いは二人程自殺しているが、どっちも勇気のあるヤツだと思う。
俺はどうにも勢いが足りない。死ぬ気持ちを高めて爆発させることが出来ない。
死にたがっている割に、俺は生き汚い。
初めて飛行機に乗った折に、「死にたくねえ」と呟いたのが証左。
かと言って。ロクな未来を描く事の出来ない俺は人生に対して消極的だ。
生きていたって、ロクな事はあるまいて。
せいぜい、お国の為に頑張って税金を収める位である。
こんな人生、何が楽しいのか?他人の養分、家畜と変わらないじゃないか。
そう。俺は家畜なのだ。全ては消費される為に。
…電車はまだ来ない。遅延はしてないらしいが、ここは田舎の九州だ。電車などそんなに走っていない。
頼むから。さっさと電車が来てくれないだろうか。
じゃないと。俺はネガティブな思考を撒き散らし続ける事になる。
雪はしんしんと降り続き、俺の頬を叩く。
『粉雪舞う駅のホームで』 小田舵木 @odakajiki
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