白い花の咲く谷で
「サトルくん、起きて」
エイジくんの声が聞こえました。
目を開けると、エイジくんが座っています。
空は真っ青で、白い雲が浮いています。
鳥の声も聞こえ、風に乗って花の匂いも流れてきます。
「ほら、町に着いたよ」
「本当だ!」
サトルくんは、立ち上がりました。
すぐ先に、町を囲む高い塀が見えます。
塀の中には、いくつもの塔が見えます。
「すごい、お城みたいな町だね!」
「うん、父さんたちや兄さんは、あの町を守ってるんだよ」
ふたりは、手をつないで走り出します。
父さんたちは、町はずれの川のそばで、大砲を撃っているのです。
川のそばに行けば、会えるはずです。
塀の横を走り、曲がり、すると広い川が見えました。
けれど、大砲はどこにもありません。
あるのは、白い花に埋め尽くされた野原です。
川を挟んだ向こうの野原も、白い花が咲き乱れています。
「悪魔もいないね。静かだよ」
サトルくんは、不思議そうに野原を見渡します。
ここで戦争をしているとは思えないほど、きれいな光景です。
「サトル、待っていたよ」
なつかしい声が聞こえました。
振り向くと、お父さんが立っています。
横には、お母さんもいます。
「サトル……ここに来てしまったのね」
お母さんは、泣いています。
サトルくんも泣きながら、お父さんとお母さんに抱きつきました。
お父さんの胸は温かく、お母さんの笑顔はとても優しいと思いました。
振り向くと、エイジくんも、お父さんやお兄さんと抱き合っています。
エイジくんのお母さんも、そばで泣いています。
「さあ、家に帰ろう」
お父さんが指さす向には、ふるさとの村がありました。
小さなこどもたちがガチョウを追いかけ、ヤギが鳴いています。
かまどの煙が、家々の屋根から立ち昇っています。
パンが焼ける香ばしい匂いが漂ってきます。
エイジくんとサトルくんは、家に向かって走ります。
今日からは、家族そろって、ごはんを食べます。
明日からは、お父さんたちも畑で働きます。
「明日も、ヤギの世話をしようね」
「うん。終わったら、谷に遊びに行こう」
サトルくんは微笑みました。
谷では、きっと白い花が咲いていることでしょう。
ずっと、ずっとね――。
―― おわり ――
白い花が咲く町で、お父さんたちは戦争をしています mamalica @mamalica
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