悪魔と出会って
そして、朝が訪れました。
まぶたを上げたサトルくんは、前よりも目が見えることに気づきました。
「エイジくん、君の顔が見えるよ!」
サトルくんは、しっかりとエイジくんの手をにぎります。
昨日までは、ぼんやりとした影のように見えたエイジくん。
でも今日は、エイジくんの顔が、はっきり分かります。
エイジくんは、嬉しそうに言いました。
「きっと、聖母さまが治してくれたんだよ。明日には、もっと見えるようになるよ」
「うん。町についたら、お父さんたちの顔も見えるね」
サトルくんも笑い、ふたりはパンと蜂蜜を食べ、木の下で体を休めます。
そばには、黄色と白の花が咲いています。
ふたりは花を摘み、小さな泉に足をひたし、鳥にもパンを分けてあげました。
焦げた臭いも消えて、道の先には草原が広がっています。
遊んでいるうちに、日は暮れ、空は赤く染まりました。
ふたりは木の下に座り、パンと蜂蜜を食べようとすると――
だれかが歩いて来るのが見えました。
でも、様子が変です。
木のかげに隠れて見ていると――
すぐ近くで、それは倒れました。
それの全身は真っ黒で、大きな角が生えているように見えます。
「悪魔だよ、エイジくん」
サトルくんはエイジくんに抱きつき、ささやきました。
「ぼくが見てくるよ。サトルくんは、ここから動かないで」
「ううん。一緒に行くよ」
ふたりは、こわごわと近づきます。
草むらに倒れた背の高い悪魔は、まったく動きません。
死んでいるように見えます。
よく見ると、大きな角は頭から二本はえていて、片方は折れています。
ふたりはしゃがみ、悪魔を見ていると――悪魔が、何か言いました。
生きていたのです。
ふたりは、急いで木のかげに逃げます。
サトルくんはおびえ、エイジくんの手を握ります。
「エイジくん、悪魔は生きてるよ。こわいよ」
「いや、もう死んだよ」
「分かるの?」
「うん」
「悪魔が言ってたことも分かる?」
「うん」
サトルくんは、悲しそうに微笑みました。
「母さん、って言ってた」
「えっ?」
聞き返したその時、真っ赤な花が見えました。
花は夕焼けの空と重なり、強い風が吹きつけ、サトルくんは倒れます。
「エイジくん!?」
エイジくんを見失い、サトルくんは叫びました。
膝をついて手を伸ばすと――何かに触りました。
それを持ってみると――それは焼け焦げた『手首』でした。
大きさで、すぐ分かりました。
それは、サトルくんの『手』です。
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