記憶と予知夢と幻覚
「つまり。この星そのものがエスパー能力を持っていて、あなたが長い間ここにいる事で影響を受けて、どんどんどんどん力が強くなった」
「はい」
「命の危機に瀕した時以外にもあなたに定期的に訪れる、身体の再生によって長い眠りが必要で無防備な時に、もちろんあなたも結界を張って隕石落下や攻撃などの予想外の出来事に備えていたけど、この星もあなたを守ろうとして、この星を訪れた相手に手当たり次第に見せようとした。すぐにでも追い払えるような恐ろしい幻覚を。でも、失敗した」
「はい」
「あなたの記憶と予知夢がごちゃ混ぜになった幻覚を見せた。そして、あなたもその幻覚に囚われてしまった」
「はい」
「この星は幻覚の解き方を知らなかった。あなたを眠りから目覚めさせようとしても、できない。だからこの星は私を呼び寄せた。あなたをこの幻覚から目覚めさせる事ができる、唯一無二の存在である私をね」
「はい。本当にありがとうございます。二五四」
最強のエスパーに深々と頭を下げられた二五四は、いいのよと鼻高々に言ったのであった。
「私は優秀なエスパーだもの。しかも、あなたに短い時間とはいえ、指南を受けた貴重なエスパー。あなたを助けられるのは、私以外いないわね」
「はは」
最強のエスパーは苦笑をこぼしてのち、目を細めて胸を張る二五四を見つめた。
二五四は満面の笑みを浮かべていたが、不意に目を眇めて最強のエスパーを見た。
「再生は無事に終わったの?」
「はい」
「そう。それならいいわ。ところで、予知夢って事は、あなたはこれから少年に会うって事かしら?」
「そうですね。力の強い少年に。かつての私と同じような、けれどきっと違う状況にある少年に会いに行く事になると思います」
「マトリクスコピーをした、あなたを見つけてくれた女性の姿で、ね」
「はい」
「そう。じゃあ、気を付けて行ってきてね」
「おや。一緒に行ってあげるとは言ってくれないんですね」
「ええ。あなたが望むなら一緒に行くけど?」
やわらかな視線が交差してのち、最強のエスパーはいいえと言った。
「助けが必要な時にまた呼びますね」
「任せておいて」
手のひらで胸を叩いた二五四に、頼もしいですと微笑みを向けてのち、助けてもらったお礼を兼ねて夕飯をご馳走しますよと言った。
二五四は目を輝かせた。
「やった!私、最強のエスパー特製のシチュー食べたい!」
「ええ、いいですよ」
「あ!私も手伝う!」
「はい。よろしくお願いします」
最強のエスパーは二五四と一緒に台所に向かう途中で、これから会いに行く少年へと、そして、かつて自分を見つけ出してくれた女性へと想いを馳せた。
(私も、あなたのように少年を導けるといいんですが)
私と同じなんて無理だよ無理。
そんな声が聞こえた気がして、確かにそうですねと心中で応えたのであった。
「いっぱい作って、いっぱい食べましょう。友人も呼んで」
「ええ!」
さあ、いっぱい食べて、一度だけ眠って、君に会いに行こう。
「あなたは。ぼくをどうやって。ぼくは、ぼくは、どう、いえ。別に。ぼくはこのまま。透明人間のままでよかったのに」
声も姿も色がない、まさに透明人間で無表情の少年に、最強のエスパーは微笑を浮かべたまま、だまって手を差し伸ばした。
少年は暫くの間、ぼんやりと最強のエスパーの手を見つめてのち、ちょこんと手を置いたのであった。
(2024.1.28)
暁月夜 藤泉都理 @fujitori
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