尼寺に行こう!

dede

尼寺に行こう!

「嗚呼、アロマの芳香に満たされたこの部屋に、ノックされるベルの音がリズムに乗って流れてくるわ!」

「お、おう。引きずってるなクリスマス?」

「まだ私のクリスマスは終わってない!」

「あと5秒で日付変わるぞ……あ。おめでとうございます」

「おめでとうございます!今年もよろしく!」

「それじゃそろそろ神社に初詣行っとく?」

「喧嘩売ってるの!?私んち、寺なんだけど!」

おかげで部屋が線香臭くていけないわ!

「あとコタツから出たくないわ!」

「寒いもんなぁー」

コージは出るどころか益々コタツに潜り込んだ。

「お、いたいた」「フー寒い。私も入れてー」

襖が開いてミナトとモミジが入ってきた。

「ちょっとこの年の瀬の深夜にノックも挨拶もなしに乙女の部屋にサラリと入ってこないで!」

「あ、おめでとー。年の瀬じゃなくて新年だけど」「おめでとー、アンジュ、コージ」

「おめでとう!今年もよろしくね!」

「二人ともおめでとー。やっぱ外寒いか?」

2人ともコートを定位置に掛けると、コタツもいつもの場所に潜り込んだ。

「おお、寒かったぞ。でも俺ら初詣済ませてきたから」

「やっぱアンジュのうちのおしるこ美味しいわー、おかげで毎年初詣ココなのよね」

「ありがとう!毎年私が作ってるからね!」

「今度作り方教えて?」

「ヤよ!毎年初詣に来なさい!そして私の家にお金を落としなさい!」

「ってか手伝わなくていいのか?あれ?俺毎年聞いてる?」

「聞いてるわ!私おしるこ作ったからお手伝い免除よ!」

「あ、このやり取り去年聞いたわ。で、サボってた事をおじさんに怒られたんだよな?」

「去年は去年、今年は今年!」

「アンジュは檀家の方たちに挨拶しに行った方がいいんじゃないの?」

「さっき挨拶したよ!」

「ちょっと顔を見せてきただけじゃんか?」

と、夕方からうちに入り浸ってたコージが茶々を入れる。

「チラリズムよ!ずっといたらありがたみが失せて良くないわ!」

「だとしてもそろそろ初詣は行ったら?」

「ヤよ!明日の昼にするわ!」「寒いし俺もそうする……」

「……こいつら、寺にいるのに」

「じゃ、何する?私まだ帰る気ない……ってか、初日の出見てから帰るって家には言ってる」「俺も」

「家主の許諾がない!」

「おじさんがいいって」「私も聞いた」「俺も」

「あの住職!誰に断って許可した!」

「いや、お前がおじさんに許可取るんだよ普通」

その時スッとモミジが私の手を取った。

「私がいるの、そんなにイヤ?迷惑?帰った方が、イイ?」

「ヤ、……じゃないヨ!いて!いて!ずっと居ちゃっていいよ!」

モミジがその返事にニコリと微笑んだ。そして私の手を離すとミカンに手を伸ばす。

「でもじゃ、何する?」「麻雀でもするか?」「さっき、檀家の人が雀卓持って行ってたよ?」

「私ルール知らない!」

「「「……だった」」」

「テレビ……」「そんな気分でもないかな」「そうねぇ」

「じゃ、勉強すっか!」

「は?」「いやいや、そんな気分じゃ……」「今だけは、ねぇ……」

「今だけ、だから!」

「……ハァ、アンジュったら仕方ないわね?」「ま、やる事ないしな」「俺、さっきまでも一緒にしてたんだけどなぁ」

私とコージはコタツの上を整理してスペースを作る。

ミナトとモミジはカバンから参考書と筆記用具をコタツの上に広げた。

見事にみんな、志望校がバラバラだったけど、どうせなら笑って進みたいもんだ。

線香に混じって漂っているミカンの甘酸っぱい芳香に鼻をくすぐられながらそんな事を思った。

「初日の出は、一緒に見に行こうね!」

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尼寺に行こう! dede @dede2

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