第21話 体温
真っ暗闇の中、ポタリポタリと水滴の落ちる音だけが響く空間。
そんな狭くて、湿った空間に、俺とノア様は二人で取り残されていた。
「グレイグさん……? 大丈夫ですか?」
「はい……。なんとか……大丈夫です」
すると、すぐ目の前からノア様の声が聞こえてきた。
その事に俺は少し安心してしまい、俺は安堵の息を吐いた。
落とし穴トラップに引っかかってしまったものの、俺とノア様は無傷だった。
大抵は落ちた先に、とんでもない棘が設置されてたり、変なスライムとかが設置されたりするものだ。
その場合は少し面倒臭い処理が必要なのだが、今回のトラップは比較的優しかった。
下には冷たい水溜まりがあるのみで、他の嫌がらせ要素は無いようだった。
まぁ、それでも、水溜まりと言っても、腰まで水に浸かる状態になってしまい、俺の体温は確実に削り取られていた。
助けが来るまで、俺とノア様はこの微妙に精神が削られるトラップを耐えなくてはならなかった。
「ちょっと寒くなってきましたね……」
トラップに落ちて数分が経つと、ノア様が震えた声でそう小さく呟いた。
「そうですね。ちょっと……寒いですよね」
この冷たい水溜まりは、俺とノア様の体温を奪っているようで、少し身体が震え始めてきてしまった。
「少し手を繋ぎませんか? 寒いですし……」
すると、目の前のノア様が、俺に手を差し出した。
「え……? 手を……ですか?」
まぁ、そっか。寒いから手を繋ぐのは合理的ではある。
身体も震えてきたし、このままじゃ限界まで俺の身体の熱が逃げてしまうのは目に見えている。
俺はゴクリと息を飲み込み、ノア様の手を取った。
暖かくて、柔らかい感触が手に伝う。
「ふふっ、数日ぶりにグレイグさんと二人っきりになれましたね。私……本当はちょっと嬉しいんです」
すると、ノア様は俺の手をギュッと握り締めながら、そう言った。
「そ、それは……すみません。俺もノア様の期待に応えたいんですけど……」
昨日までの俺は、ノア様の意向を無視した行動を何度も強行した気がする。
まだ話してから一ヶ月も経っていないノア様に、こんなことをするのは心苦しかった。
俺は自分の行いを反省し、目を伏せた。
「私はグレイグさん以外のことなんて、本当にどうでもいいんです。でも、グレイグさんは私以外のことも大切で……だから、世界を救おうとしてるんですよね?」
ノア様は俺の顔に手を伸ばし、俺の頬を優しく撫でた。
ゾワッとする感覚にある種の心地良さを覚えながら、俺は目の前のノア様を見つめる。
真っ暗で見えなかったノア様の顔が薄らと見えた。
「でも、グレイグさんの大事なものを、私も守らなきゃダメだと気づきました。だから、私はもう自分勝手なことは言いません」
ノア様は俺の目をじっと見つめ、そう言った。
その声音は悲しげで、その声のせいで俺の胸はぎゅっと締め付けられた。
ノア様のその諦めは、俺の心をどうしても苦しませた。
「お、俺は……ノア様がどうしてもって言うなら……」
ノア様の悲しそう声に、俺は思わずそんなことを言ってしまった。
「ふふっ、グレイグさんは優しいですね。でも大丈夫です」
ノア様はそんな俺の言葉を小さく笑って、受け流してくれた。
「でも、今だけは……二人っきりですから」
すると、ノア様は俺の方へ身体を近づけ、腕を背中の方へ回す。
俺はがっちりとノア様に抱きつかれたまま、動けなくなってしまう。
胸の辺りに走る柔らかい膨らみの感触と、ノア様の暖かい息が顔に当たってしまう。
「の、ノア様……ちょっと……」
耐えられない感触のせいで、俺は身を捩ってしまう。
「今だけは私だけの……」
ノア様はそう呟きながら、俺の胸に顔を埋める。
ノア様のくすぐったい感触のせいで、思考が渋滞を始める。
「の、ノア様……? ちょっと……! これは……ダメですよ!」
俺は理性の限界を感じて、ノア様を離そうと身体を動かす。
しかし、ノア様の力はとんでもなく強く、俺の身体は少しも動かせなかった。
ま、まずい。本当にまずい。
なんとかノア様にお願いして、離れるように頼まないと……。
「ノア様? 少しだけ離れて欲しいんですけど……」
「まだダメです。もうちょっとだけ……このままいさせてください」
ノア様はさっきよりも、強く力を入れ、俺を離すまいと抱き締めた。
俺はピクリとも動けず、ノア様の抱擁を受け入れるしかなかった。
主人公を庇って死ぬだけのモブキャラ、生き延びてしまった上に、主人公が激重過保護ヤンデレになってしまった件について。 seeking🐶 @seeking1111
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