第12話 子羊の目覚め

 気が付くと三年生の浅香晴美あさかはるみが来ていた。一部始終を見ていたようだ。

 慈代やすよがバッグの中から台本を準備していると晴美がやって来た。


「女優さんね」

「晴美」


 恵人けいとが慈代のところに行く。

「ごめんなさい」


 台本を持った手を止め、恵人の方を見る慈代。

「本当よ。傷ついたんだから」


「ごめんなさい」


「慈代を傷つけるなんて、ダメなんだぁ」

 晴美が微笑みながら、恵人を指差して言う。


 三年生の優香ゆうかがやって来た。

「恵人。あの日、慈代、泣きながらうちに来て大変だったんだから『家に行ったら恵人が瑞葉ちゃんとキスしてた』って夜まで泣いてたのよ」


「慈代を泣かせるなんてサイッテー。そんなことしてたら雅也まさやみたいになるよ」

 和美がそう言って清田きよたの方に歩いて行った。

 そして、何か笑いながら、雅也の頭をはたいている。


 部長の松宮麗まつみやうららが集合をかける。

「今日は台本の読み合わせをします。宮原一美みやはらかずみ先生がいらっしゃるから頑張ってね」


 そして今日の練習が始まった。


 その日の夜、瑞葉は、慈代とのキスを思い出した。

 思い出すと、また、どきどきする。

 何なんだろう、この感情は、今までなかった感情だった。

 私は何か変なのだろうか? 忘れよう、眠って忘れよう。明日になればきっと普段通り、今日はいろいろなことがあって、私おかしいんだ……そう思い、目を閉じて眠った。


 夢の中でも忘れられない……夢の中で美しい慈代が近づいてくる。慈代がいつも身に付けている香水の香りに、どこか別の世界へいざなわれるような不思議な感覚に包まれる。


慈代の唇が自分の唇と重なる

瑞葉は身体からだの奥深いところを刺激されたような気持ちよさを感じた。

だめ、慈代さん……

慈代が唇を合わせてきた。身体が熱く溶けていく、気持ちいい

心臓が高鳴る

っ……かすかに吐息が漏れ

息が上がっているのがわかった。

そう思った瞬間、目が覚めた。


 身体が熱い。身体の奥から全身にひろがる気持ちよさ……身体も心も興奮しているのがわかった。


どうしよう……これって……


 その夜、瑞葉は憧れなどではなく、本当に彼女を好きになっている自分に気が付いた。


fin

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子羊たちは眠らない KKモントレイユ @kkworld1983

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