真なる力
「あのトカゲめ!! 絶対に許せん!!」
ユナに
その手にはユナ特製の弁当が握られていた。
勝手に自称ドラゴンが帰ったせいで自分が
完全に自業自得ではあった。
そして、ダンジョンへとやってくると自称ドラゴンは何やら穴に突っ込んで身動きが取れなくなっていた。
「た、助けて欲しいのじゃ。動けないのじゃ」
クルトが来たことに気づいたのか、トカゲは体をバタつかせていた。
「さて、今日も忙しいからな。帰るか」
「ま、待つのじゃ……。助けてたもれ」
「はぁ……。わかったよ」
仕方なくトカゲの尻尾を掴むと軽く引っ張る。
もちろんクルトの力だとまるで動く気配がなかった。
「俺じゃどうすることもできなかったな。諦めてくれ」
「待ってくれ。引いてダメなら……」
「切り捨てるか」
「切ったらダメじゃ」
「でもトカゲならしっぽとか切ってもまた生えてくるだろ?」
「トカゲじゃないのじゃ。た、たしかに切っても生えてはくるけど……。体が引っかかってるのじゃ」
「体を切るか? 生えてくるのだろう?」
「体は無理なのじゃ!!」
「やる前から諦めるのは良くないぞ? 何事も挑戦だろ?」
「確実に死ぬとわかることは挑戦でも何でもないのじゃ」
「わがままだな」
「我か? 我が悪いのか!?」
体が詰まってる割には余裕があるように見える。
「それじゃあ俺は帰るからな」
「ま、待つのじゃ。わ、我を助けて……」
「前みたいに人になれば助かるだろ?」
「……っ!? そ、そうじゃったな」
全くそのことを考えていなかったのか、クルトの言葉を聞いてトカゲはハッとしていた。
「そ、それは盲点じゃった」
「むしろ最初に気づくことだろ?」
「ほとんど人型でいないから気づかないのじゃ」
トカゲはもぞもぞと動くと甲高い音を鳴らして赤髪の少女へと姿を変えていた。
ただし当然ながら少女は全裸である。
慌ててクルトは上着を少女に着せる。
「全く、いちいち裸になるな」
「カサカサしたものなんて着たくないのじゃ」
「……輪切り」
「ちゃ、ちゃんと着るのじゃ」
嫌々ながらトカゲは服を着る。
「それで真なる力は発揮できたのか? 俺には洞窟に引っかかってるだけに見えたが?」
「そ、そんなことはないのじゃ。あ、あれはたまたまなのじゃ」
「それじゃあ早速真の力を見せてくれるか?」
「も、もちろんじゃ」
服を着たトカゲは両手を広げていた。
「これが我の力じゃ!」
トカゲの後ろにいくつもの火の玉が生み出され、それが遠くに見える山へと飛んでいく。
そして、山の頂が大爆発を引き起こしていた。
「ふふふっ、我の力を見たか」
自信たっぷりに腰に手を当てているトカゲ。
クルトはそんな彼女の頭を思いっきり叩く。
「痛いのじゃ! 何をするのじゃ!」
「あの山にもし誰か居たらどうするんだ!!」
「ちゃ、ちゃんと気配を察知したから大丈夫なのじゃ。気配を隠してたらわからぬが、我の気配察知から逃れられる奴なんて碌な相手じゃないのじゃ」
一応トカゲも考えて火の玉を放っていたようだ。
「それで俺の館も燃やすつもりだったのか?」
「ち、違うのじゃ!? わ、我はその……、り、料理の手伝いをしようと……」
「……消し炭になるじゃないか」
――いや、ちょっと待て? 確かに消し炭にした方が被害が少なかった。それを考えるとこのトカゲが言っていることもあながち間違いではない。
「そういえばユナの作った料理を持ってきたぞ? お前、食べずに出て行っただろう?」
そういうと
明らかに食べ物から発してはいけない臭気が漂っているように思えるが、トカゲはまるで気にする様子はない。
「な、なるほど。それはすまなかったのじゃ。気を遣わせてしまったのじゃ」
「気にするな。これでいいならいくらでも食わせてやる。何だったら毎日口の中に流し込んで……、いや、何でもない」
クルトの言葉を気にする様子もなくトカゲの視線はユナの料理へと向いていた。
「こ、これ全部食べて良いのか?」
「もちろんだ。遠慮なく食ってくれ」
「そ、それじゃあ早速いただくのじゃ」
トカゲは笑顔のまま料理を口へと運んでいった。
当然ながらあれは毒物。
すぐに吐き出すことを想定していたのだが……。
「美味い。美味すぎるのじゃ。こんなに美味いものは初めてなのじゃ……」
なぜかトカゲは泣きながら料理を全部食べきってしまうのだった――。
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悪役領主に転生したので一芸特化のかませキャラたちと黒幕倒してみる 空野進 @ikadamo
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