トカゲ歓迎会
仕方なくクルト達は大トカゲを連れて館へと戻っていく。
一応歓迎会、ということだがそれを用意するのがユナとあってはまともなものが出されるとは到底思えない。
でも暴れさせずに大トカゲを討伐する、と言う点ではユナの方法が一番確実とも言えた。
そして大トカゲを応接間へと連れて行く。
「では、私は食事の用意をしてくるよ。ちょっとだけ待っててね」
「もう待てないのじゃー! お腹空いたのじゃー!」
お前を料理にしてやろうか、と一瞬考えるがトカゲなんて食べようものなら腹を壊すのが関の山だろう、とグッと思いとどまった。
「ふふっ、大丈夫だよ。元々クルト様の食事として用意していたものを仕上げるだけだから」
なんとも恐ろしい言葉がユナから発せられる。
大トカゲを連れてこなければクルトは何も知ることなく
その一点だけでも大トカゲに感謝したかった。
「よし、料理は残さずに全部食うんだぞ。食い切れなかったら口に入れるのを手伝ってやるからな」
せめて連れ帰ってきたからには有効活用させて貰おうと心に決めるのだった。
ユナが料理を作りにいっている間、クルトは大トカゲと見合っていた。
イルマは館へ戻ってくると早々に「今日の研究をしてくる」と部屋を出て行ってしまった。
何かあっても俺一人だと対応なんてできないのだが……。
そう思うクルトであったが、料理が食べられるとあって大トカゲはちょこん、と椅子に座ったまま身動きを取ろうとしなかった。
「それでお前はどうしてあんな所にいたんだ?」
「どうして……、とはどういうことじゃ?」
「俺の領内の外れに隠された階段の先になんで住んでいたんだ? ということだ」
こいつは普通に生きている。
生きているなら当然ながら食事は必要だし、その全てをダンジョンで賄いきれるものでもない。
ただ、クルト達があの入り口を発見するまではダンジョンからこいつが出てきたような形跡はなかった。
「住んでいた、というよりは閉じ込められたのじゃ。封印された、というのが正しいじゃろうか?」
「封印? あー、確かにトカゲが嫌いな奴も多いしな」
罠を張って捕まえた上で閉じ込めたのだろう、とクルトは納得する。
「それよりも我はドラゴンだ。トカゲなどと一緒にするな」
「お前くらいの年ごとだとそういうことも言いたくなるよな。よくわかるぞ」
俗にいう厨二病というやつだろう。
大トカゲが見た目から格好いいドラゴンのマネをするのもあるのかもしれない。
その点はさすがに俺自身がドラゴンやトカゲじゃないので詳しくはないが。
「むっ、信じておらんな」
「大丈夫だ。ちゃんと信じているぞ」
こいつは厨二トカゲだということを。
「信じたのなら構わない。我はドラゴンのルーサじゃ」
「トカゲだな。わかった」
「全然分かっておらんではないか!」
騒がしいトカゲをよそに更に詳しい話を聞き出す。
「それでどうして封印されたんだ?」
「それは我の力を恐れて、だな」
自信たっぷりに胸を張るトカゲだが、爆発薬だけであっさり倒されるトカゲの言い分は信じられない。
おおかた地上に悪さをして、強い敵が現れたことで地下へ逃げたところ入り口が塞がってしまって出られなくなったのだろう。
ある意味その力を恐れて、とも言えなくもない。
「それでこれからはどうするんだ? またあのダンジョンで生活をするのか?」
「も、もう暗いところで過ごすのは嫌なのじゃ。どうせなら外へ飛び出して……」
「魔物が飛んでたら襲われたりとかしないのか? それでなくても大トカゲだと冒険者なりが討伐対象にしそうだが?」
トカゲの動きが止まる。
そして、ゆっくりとクルトの方に視線を向ける。
「わ、我はこう見えても役に立つぞ? な、なにせドラゴンだからすごく強いのじゃ」
「爆発薬に負けてたじゃないか?」
「ち、力持ちじゃぞ? ほれ、見てみるのじゃ」
そういうとトカゲは腕をめくり上げてくる。
力こぶを作ろうとしてるのは見て取れるが、一切そこに変化はなかった。
「どうじゃ!?」
「まぁダンジョンの中でも達者で暮らせよ」
「な、なぜじゃ!?」
むしろどうしてそれでいけると思ったのかを問いたいほどだった。
「こ、こうなったら見てるのじゃ。今こそ我が真なる力を発揮してやるのじゃ」
そういうとトカゲはどこかへ出かけてしまった。
「あっ、ちょ、ちょっと待て。せ、せめて飯だけでも食っていけ……」
「あれっ? あの子はどこに行ったの?」
タイミング悪くユナが部屋に戻ってくる。
「な、なんか用事ができたらしい……。だから料理は……」
「それなら仕方ないね。クルト様の分だけ準備しておくよ」
こうしてクルトは逃げ場のない戦いへ赴くことになるのだった。
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