味方の味方は敵?

 それからオオトカゲは毎日のように地上へとはい出てこようとするので、イルマと協力して幾度となく気絶させ、地下へと押し込めていた。

  

 そんな生活を一か月続けているとついにはオオトカゲは出てこなくなり、代わりに赤髪の少女が入り口手前で倒れていたのだった。

  

 もしかするとこの地下へ無理やり入ろうとして臭いにやられてしまったのだろうか?

  

 見たこともない少女。

 領地の子ではないようだが、いったいどこから来たのだろうか?

  

 クルトが不思議そうにしているとイルマがさも当然のように懐から爆発薬を取り出していた。

  

  

「ちょ、ちょっと待て!? さすがにこんな小さな子に向かってそれを投げるのはまずい」

「どうして? いつもしていることでしょ?」

「いつもはトカゲだからいいが……」

  

  

 そこでふと疑問に思う。

 もしかするとこの少女、あのトカゲが化けた姿、とは考えられないだろうか?

 十分にあり得そうな話ではあった。

  

 そしてそれを試す方法はただ一つ。

  

  

「わかった。一度だけだからな。あとは直接当てずにあくまでも臭いを嗅がせるだけだぞ?」

「もちろんわかってるよ。ボクの力を信用してよ」

「むしろそのちからを信用しているから言っているんだぞ?」

「あれっ? まぁそれならいいや」

  

  

 不思議そうにしながらも納得をしたイルマ。

 そのまま爆発薬を放り投げようとすると倒れていた少女は慌てて起き上がっていた。

  

  

「待て! 待つのじゃ!! 待ってほしいのじゃ!」

「えいっ!」

  

  

 ドゴォォォォォォン!!!!

  

  

 少女の静止もむなしくイルマは爆発薬を投げ、その結果周囲一帯に臭気をまき散らしていた。

  

 倒れる少女。

 クルト達は風上にいたために気絶するほどの強烈な臭気は受けなかった。

  

 すると少女はその姿をオオトカゲへと変化させていった。

  

  

「やっぱり偽物だったか」

「ボクの勘がさえわたっているね」

「悔しいがそのようだな」

  

  

 嬉しそうにするイルマ。

 結局ドラゴンを再び地下に封印すると、クルト達は再び館へと戻るのだった。

 そして、その翌日。

  

  

「昨日はよくもやってくれたな。我が待ってくれと懇願したのが聞こえなかったのか」

  

  

 再び少女姿で現れるオオトカゲ。

 正体がわからなかった昨日までとは違い、さすがにトカゲとわかってはクルトも手加減をする気はなかった。

  

  

「イルマ!」

「任せて!」

  

  

 懐から爆発薬を取り出すイルマ。

 すると少女は再び涙目で必死に懇願してくる。

  

  

「ま、待ってほしいのじゃ。我の話を聞いてほしいのじゃ」

  

  

 そういいながらオオトカゲはそっと金色の細長い何かを差し出してくる。

  

  

「これはなんだ?」

「その辺に落ちてた木の枝じゃ」

  

  

 無言でその木の枝を拾うと半分に叩きおり、そのまま放り投げる。

  

  

「イルマ、やっていいぞ」

「ちょ、ちょっと待つのじゃ。かわいいドラゴンジョークじゃないか」

  

  

 自分のことをドラゴンの言い張るオオトカゲ。

 見てると思わず殴りたくなるその笑顔にほほを引きつらせながらもクルトは仕方なく話を聞くことにする。

  

  

「それで話っていったいなんだ? 言わないなら――」

「ま、待つのじゃ。も、もうあの臭いのだけはやめてほしいのじゃ。我にできることならなんでもするからあれだけは勘弁してほしいのじゃ」

  

  

 土下座をして頭を下げてくるオオトカゲ。

 ただ正体を知っているからいいようなものの傍から見るとクルトの姿は悪役そのものだった。

  

  

「く、クルト様!? ど、どうしてそんな小さな子を!?」

  

  

 たまたまクルト達の様子を見に来たユナが青ざめた表情を見せてくる。

 そういえばユナにはこの少女がオオトカゲであることは話していなかった。

  

  

「ご、誤解だぞ!? こいつはダンジョンにいたオオトカゲで――」

「そんな小さな子をトカゲ呼ばわりだなんてひどいよ!?」

  

  

 ユナがオオトカゲの下へと駆け寄り、抱きかかえる。

 するとオオトカゲもチャンスと言わんばかりに言ってくる。

  

  

「そうじゃそうじゃ。我を虐めるなんてひどいのじゃ」

  

  

 思わずにやけ顔になるオオトカゲ。

 そのしてやったりな表情にクルトは苛立ちを隠しきれなかった。

  

  

「そうだな。確かに俺も一方的に攻め立てて悪かったな。そうだ、そのとか……、いや、その子の歓迎をしたいのだが、ユナが料理を作ってくれないか?」

「いいの?」

「あぁ、もちろんだ。一番その子を歓迎したいのはユナだろう?」

「わかったよ、心を込めて作り上げるね」

  

  

 ユナは嬉しそうに厨房へと駆けていく。

 一方のクルトはそろりと逃げていこうとするトカゲを捕まえる。

  

  

「お前の歓迎会だぞ? せっかく命を救ってくれたユナの気持ちを無駄にするのか?」

「い、いや、なんだか身の危険を感じたからのぉ。我はいつも通り洞窟に引きこもっておるのじゃ」

「戻るのか? まぁ、それならいいけど、戻れるのか?」

「どういう意味じゃ、それは」

「見てのとおりだが?」

  

  

 洞窟からはとんでもない臭気が漂っている。

 日課のごとくイルマが洞窟内に爆発薬を放り込んだのだろう。

  

  

「まぁ、あの中へ戻っていくというのなら止めないが……」

「行く、行くのじゃ。喜んで行かせてもらうのじゃ」

  

  

 トカゲは目に涙を浮かべながら必死に言うのだった。

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